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ワカケホンセイインコとは

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 ワカケホンセイインコ(Psittacula krameri manillensis)は、ホンセイインコ(Psittacula krameri )の亜種で、本来インド南部やスリランカに生息している緑色の鳥です。原産地では、主に低地の半砂漠から二次的な明るいジャングルにかけて生息していますが、標高1,600mのような標高の高い場所にも分布しているようです。

 日本には飼い鳥として持ち込まれたものが逃げ出したりして、1960年代に入ってから関東地方などで野生化し始めたと考えられています。今まで関東のほかにも名古屋や大阪、新潟等でも記録があります。

 東京都では大田区の東京工業大学構内のイチョウ並木にねぐらがあり、夕方になると1,000羽を超えるワカケホンセイインコが毎日集結します(2016年現在、ねぐらが移動しています)。ねぐらは1つなのか、生態系の中で本種がどのような位置づけで生活し、大きな影響 を及ぼしていないかなど、把握していかなければならないことがたくさんあります。また、原産国では農作物を荒らす害鳥として扱われているようですが、日本では害を及ぼしていないのでしょうか。ないとすれば、それはなぜでしょうか。それにより今後も害を及ぼす可能性がないかなども調べていかなくてはならないでしょう。

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左:オス(首輪がある) 右:メス(首輪がない)
※若い個体はオスでも首輪がなく、メスでも首輪があるものもいる。

野生化しているインコの仲間

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 ワカケホンセイインコの他、オオホンセイインコ、ダルマインコ、アオボウシインコ、ムジボウシインコ、セキセイインコなど、1970年代前後のペットブームに合わせて多くの種の観察例がありますが、近年東工大のねぐらで生息が確認されているのはワカケホンセイインコとダルマインコ、ムジボウシインコで、繁殖が確認されているのはワカケホンセイインコとダルマインコです。

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左:ダルマインコ,右:ワカケホンセイインコ

​東京都周辺における個体数調査

 野生化した移入種の個体数変動をモニタリングしていくことは、分布の拡大や農業被害、生態系への影響を推測する上で重要な情報となりますが、日本におけるワカケホンセイインコの個体数調査に関しては一時的に実施されたものが多く、変動を定量的に示すためのとりまとめは今まで行われてきませんでした。そこでこれらの個体群の中でも東京都周辺に分布している最も大きい個体群について、1980年代から2021年に至るまで、当連盟、帰化鳥類研究会、東京工業大学、千葉科学大学が別々に実施した個体数調査のデータを取りまとめて個体数変動について把握を試みました。その結果、ゆっくりとしたペースで増加傾向を示していることが分かりました。今後の個体数変動をモニタリングするためにも当連盟では東京都周辺における個体数調査を継続していきたいと思います。

東京都周辺におけるワカケホンセイインコの個体数変動

ワカケホンセイインコへの餌台自粛のお願い

餌台自粛のお願い
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金網のカゴを組み合わせ、その中に吊り下げ式の餌台を設置。
ネコなどに襲われないように開けた場所に設置しましょう。

 これまで分かってきたワカケホンセイインコの国内での生態や、一般の方からの情報提供、GPSによる追跡調査により、外来種のワカケホンセイインコは季節を問わず、民家などで出されている餌台の餌に依存していることが分かってきました。容易に餌を獲得できる餌台は、個体数を増加させる一因となります。また、そこで味を覚えてしまったことで今まで食べ物として認識していなかったものを食べ物として認識し、農業被害に繋がっていくことも考えられます。

 ワカケホンセイインコは50年に渡り関東に定着し続け、既に日本の生態系に入り込んでいます。まず優先すべきは人との軋轢を起こさないことだと考えています。個体数増加は生態系への影響だけでなく、分布の拡大にも繋がります。分布拡大は農業被害のリスクを高くします。現在、外来生物法※1では特定外来生物に指定されていませんが、生態系被害防止外来種リストでは「その他の総合対策外来種」としてリストアップされています。今後農業被害が深刻になれば、特定外来生物に指定されることになるかもしれませんし、指定されなくても有害駆除の対象になるでしょう。今後の軋轢を緩和するためにも餌やりの自粛についてご理解、ご協力のほどよろしくお願いいたします。

 もし既にご自宅の餌台にワカケホンセイインコが訪れてしまっている場合には少しずつ餌の量を減らしていき、餌台の依存度を減らしていきましょう。また、在来鳥類の為に餌台を設置していたのにワカケホンセイインコが来てしまった場合にはワカケホンセイインコが入れないような金網を設置するなどの対策を取っていただくといいかと思います(写真)。なお、在来鳥類への餌台に関しても自然界の餌が豊富にある春~秋にかけて設置を控えていただくようお願いいたします。
※1特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律

もしも近くにねぐらができた時は・・・

 ワカケホンセイインコは外敵を避けるために集団でねぐらをとる習性があります。この習性により、多い時には1000羽を超える数のワカケホンセイインコが夜になると集まってくることがあります。ねぐらの近隣に住まわれている方の中には駆除をしたいと思う方もいるかもしれません。しかし飛翔能力の高いワカケホンセイインコをねぐらで一網打尽にすることは容易ではなく、刺激することでねぐらが分散する恐れもあります。

 発信機を用いた調査では、ねぐらから繁殖地まで片道23キロの距離を毎日往復している個体がいることが分かっています。しかし移動距離には制限があるため、ねぐらが一つであれば、それ以上分布は拡大されません。しかし、ねぐらが分散すると、分散したねぐらから20km離れた場所まで移動が可能になります。これによって新しい場所へ定着、そして繁殖するようになり、分布の拡大が起こる可能性があります。分布が拡大し繁殖地が増えると、個体数の増加につながる恐れがあります。また、今まで行くことができなかった採餌場所まで行くことができるため、農業被害が起こる可能性も高まります。ねぐらでの駆除や追い払いは、長い目でみれば逆効果になるのです。

 当連盟では、ねぐらを分散させないよう公共の場では人通りが多いところは剪定してワカケホンセイインコが止まれないようにし、人通りが少ない場所はねぐらにしてもいいようにゾーニングすることで共存できないかと提案しています。場所の条件により難しいケースもありますが、もしも近くにワカケホンセイインコのねぐらができたと思われる場合にはまず当連盟にご相談いただければと思います。

​※一つのねぐらから複数のねぐらに分散するイメージ図

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​ねぐらが一つの場合は移動距離に限界があるので分布域は広がりません。

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​ねぐらが分散すると。。。

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​新しいねぐらを起点に移動することができるので分布域が広がります。

​その結果、今までいなかった場所にワカケホンセイインコが飛来するようになり農業被害に繋がる可能性があります。また繁殖地と餌場が増えることで急激な個体数増加につながる恐れがあります。

分布調査

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 2009年までに、ワカケホンセイインコにカラーリングを装着しました。東京都、神奈川県、埼玉県などで生活しているワカケホンセイインコが、東工大をねぐらとしている確かな情報となりますので、足にカラーリングをつけたインコを見かけましたら、ご一報ください。捕獲では、ねぐらへの飛来ルートの一つ(ねぐらから離れた場所)にカスミ網を張って捕獲していましたが、現在、東工大のねぐらの位置が変わったこともあり、戻ってくるコースが変わってしまい捕獲ができなくなっています。また状況が改善されましたら捕獲を行っていきたいと思います。

発信機による追跡
 相模原市と大和市に生息するワカケホンセイインコは、発信機を装着することで東工大をねぐらにしていることが確認されています。実に20数キロの距離を毎日通っているのです。東京、神奈川、埼玉に分布する多くの個体も、東工大をねぐらにしていると推測されます。

 

ワカケホンセイインコに関する情報を募集しています
ワカケホンセイインコは現在、東京都、神奈川県、埼玉県を行動圏にしているグループと、千葉県千葉市を中心としたグループ、群馬県前橋市を中心として分布するグループの3グループが知られています。東京都等を中心とするグループは1,000羽を超えるグループですが、ねぐら環境の変化もあり、主なねぐらであった東工大以外にも一時的にねぐらができていることが報告されています。このような変動期の分布情報は特に重要であり、今後のワカケホンセイインコの動向を把握していくうえでも多くの情報を蓄積していかなくてはなりません。どんな些細な情報でもかまいませんので、もし見かけられた方はご連絡のほどよろしくお願いいたします。

連絡先 (公財)日本鳥類保護連盟 調査研究室 担当:松永
Tel: 03-5378-5691  E-mail: research☆jspb.org
☆は@に置き換えてください)

ワカケ募集

学会・研究誌発表

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【日本鳥学会2021年度大会】
 
2021年9月17日~20日に開催された日本鳥学会2021年度大会で「東京都周辺における外来種ワカケホンセイインコの個体数変動」という表題でポスター発表を行いましたのでご紹介します。今回は初のオンラインでの開催となり、要領を得ないままの発表となりましたが、コメントも沢山いただくことができ、有意義な発表となりました。

 野生化した移入種の個体数変動を把握していくことは、分布の拡大や農業被害、生態系への影響を予測する上で重要な情報となりますが、日本ではワカケホンセイインコの個体数を定着した当初から追跡したデータはなく、別々の組織が不定期に調査して得たデータしかありませんでした。そこで最も大きい東京都周辺の個体群について、1980 年代から 2021 年に、帰化鳥類研究会、東京工業大学、千葉科学大学、当連盟が各々実施した個体数調査のデータを取りまとめて個体数変動について把握を試みました。その結果、1980年代と比較すると緩やかに個体数が増加していっていることが分かりました(図1)。ハワイ、イギリス、ドイツなどでは顕著な増加傾向を見せなかったホンセイインコが、ある年を境に急激に増加したことが報告されています。日本でも今後個体数が増えることで急激な増加から分布拡大、農業被害へと繋がることが懸念されています。

 今回の発表にあたり多くの方々に情報提供とカウント調査のご協力をしていただきました。心から感謝申し上げます。今後も引き続き情報を募集しておりますのでどうぞよろしくお願いいたします。

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【日本鳥学会2018年度大会】
 平成30年9月14日~17日、新潟大学で開催された日本鳥学会2018年度大会で、「ワカケホンセイインコのねぐら環境の報告」という表題でポスター発表をしました。
 東京都を中心とするグループは、長年一つのねぐらを利用していましたが、そのねぐら環境の変化により消滅し、その後いくつかのねぐらが確認されました。本調査では群馬県のグループのねぐらも含め、7つのねぐらの周辺環境を整理し、どのような環境がねぐらに適しているか考察を行いました。その結果、利用されている樹種や周辺環境に一定の条件があることが分かってきました。(詳しくはポスターをご覧ください)。
 この調査は多くの方々からの情報提供により支えられ発表することができました。この場を借りまして厚く御礼申し上げます。また、今後も引き続き情報を募集しておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。

 

【日本鳥学会2019年度大会】
 令和元年9月13日~16日に帝京科学大学で開催された日本鳥学会2019年度大会で「GPSロガーによって得られたワカケホンセイインコの繁殖期における行動範囲の一例」という表題でポスター発表を行いました。
 GPSロガーを用いた調査を行った結果、1個体の繁殖期におけるピンポイントの位置情報を得ることができました。得られた位置情報を確認すると、繁殖地から餌場まで1.5km圏内で動いていることが分かりました。また採餌内容は捕獲場所を含む3箇所が民家で出している餌台の餌で、2箇所は木になっている果実を採餌しており、この個体に関しては餌台への依存度が高いことが分かりました。しかし1個体ではデータが十分ではありませんので、今後複数の個体にGPSロガーを装着し、詳細な行動について調査を進めていきたいと思います。また今回の発表にあたり多くの方々から情報をいただき心から感謝いたします。今後も引き続き情報を募集しておりますので、どうぞよろしくお願いたします。

【第27回国際鳥類学会議】
 平成30年8月21日から25日までカナダのバンクーバーで開かれた第27回国際鳥類学会議(International Ornithology Congress:IOCongress)に参加し、国内におけるワカケホンセイインコが野生化した歴史と現状の報告を行いました。

 発表では様々な国の方々が私たちのポスターの前で足を止め、報告に耳を傾け、色々なアドバイスや意見を出してくれました。ワカケホンセイインコは他の国でも外来種として定着していることもあり、多くの研究者が関心を示し、国際的なネットワークへの参加も勧めていただきました。今後の国内における調査・研究において想像以上に様々な方とコネクションができ、有意義な学会となりました。

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【日本鳥学会2010年度大会】
平成22年9月18~20日、東邦大学の習志野キャンパスで開催された日本鳥学会2010年度大会で、「東京都周辺におけるワカケホンセイインコの分布と繁殖環境」という表題でポスター発表しました。
皆様からいただいた情報を始めとし、日本鳥類保護連盟で調査して得た情報、東京工業大学で集めた情報、そして、文献情報等を一つの分布にとりまとめました。これにより、ワカケホンセイインコが広くて深い森林を好まないこと、東側は逆に緑地がないことで分布が広がっていないことなどを示すことができました。繁殖環境では、25箇所42番の情報を色々な角度で整理し、グラフで示しました。それらのグラフから、繁殖場所も高木の占める割合が少ないこと、穴は水平以外にも上向きの穴を使っていることを報告しました。
これらの成果は、皆様から寄せられた貴重な情報があってこそのものです。今後ともご協力のほどよろしくお願い致します。

【日本鳥学会2017年度大会】
 平成29年9月15~18日、筑波大学で開催された日本鳥学会2017年度大会で、「ワカケホンセイインコの食性の報告」という表題でポスター発表しました。
 都市部でのワカケホンセイインコの一年間の食性について、調査し蓄積した情報と皆様から寄せられた情報を整理しました。これにより2月~4月にかけては桜の花蜜への依存性が強いことが分かりました。また以前は見られなかった行動として低い位置にある餌を採餌するようになったこと、さらに今年に入ってカキ園の青いカキが採餌されるといった農業被害が起こるようになったこと等、少しずつ食性に変化が起こっているようです。今後も食性がどのように変化していくか調査し、それに伴う懸念事項を検討していきます。
 今回の発表にあたり多くの方から情報をいただき心から感謝いたします。この場を借りまして厚く御礼申し上げます。また、今後も引き続き情報を募集しておりますのでどうぞよろしくお願いいたします。

 

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この活動の一部は、公益財団法人 イオン環境財団からの助成で行いました。
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