【学校名】
ノートルダム清心学園 清心中学校・清心女子高等学校
【活動タイトル】
絶滅寸前のナゴヤダルマガエルを里親プロジェクトで守るために
【活動内容】
ナゴヤダルマガエルPelophylax porosusは、アカガエル科に分類される中型のカエルで体長40~60㎜、一見トノサマガエルに似ているが、四肢がやや短く、ずんぐりした体型で跳躍力は強くない。日本固有種で、本州・四国に分布、環境省レッドリスト2020では絶滅危惧ⅠB類に指定されている。岡山県では南部を中心に分布、河川開発や圃場整備、土地造成、水質汚染、農作業の変化などにより、生息地である低湿地帯が減少し、さらにその代替地である水田は乾田化や田溝の変容などが進行しており、個体数・生息地ともに激減している状況である。2005年から2007年にかけて岡山市内の生息地の大規模な開発が相次ぎ、おかやま大野ダルマガエル保全プロジェクト(以後、保全プロジェクト)が活動を始め、本種の引っ越し作戦、ダルマガエル米の販売、観察会などを実施してきた。しかし、ここ数年で個体数の減少が顕著になり、より手厚い保護対策を講じないと絶滅の危険性が高まってきたため、保護サイトを設けて捕食圧の回避を行うとともに、個体数を増加させるために2022年から里親プロジェクトが始まった。一般市民が幼生から幼体にかけて飼育を行い、その後放流することで、田んぼの中干しによる個体の減少を防ぐための取り組みである。
私たちの学校では昨年から里親プロジェクトに参加し、飼育中に個体が死亡した経験から、その理由を突き詰め、死亡個体を減らすために研究を行うことにした。飼育方法は保全プロジェクトの方から経験則で説明はあるが、飼育に失敗する場合がある。一般市民や公民館が各々飼育を行うため、それぞれ条件が異なり、失敗原因が追究しにくく、不明の場合も多い。そこで、私は様々な条件で飼育を行い、本種の幼生から幼体にかけて最適な飼育方法を探ることを目的とした。また、実験を行う前に本種の飼育に取り組む、姫路市立水族館と広島市安佐動物園を訪問し、飼育員の方々から飼育方法の説明を聞き、飼育設備を見学させていただいた。両施設とも、水替えを行わず、水槽に終始水滴を滴下し、一定量を超えると水槽に開けた穴から自動で水が排出される水かけ流し法を取り入れていた。この手法であれば、毎日の水替えをする手間が省け、また本種にとってもストレスが減るため、この手法を取り入れることにした。岡山県には両施設のような専門的な飼育機関はなく、一般市民でも取り組みやすい簡易的な飼育方法の確立を目指すことにした。
2024年6月21日に1ペアから産卵された幼生を保全プロジェクトから7月8日に受け取り、飼育実験を開始した。実験方法は、校内に室内1か所、屋外3か所の計4か所のポイントを設定し、大小2種類の水槽に15匹ずつ飼育した。各水槽には温度ロガーを設置し、個体の成長を把握するため、ImageJを使用して全長を計測し、前脚が生える変態のタイミングを記録した。エサはホウレンソウを一定量与え続けた。また8月以降、ダルマガエル観察会を一般・校内向けと2回実施した。生態や保護活動について説明した後には、幼体がダンゴムシを食べるようすを観察できるようにし、多くの人に本種を知ってもらう活動にも取り組んだ。その他にも愛媛県の研究発表会でスライド発表、日本動物学会でポスター発表、おかやま環境教育ミーティングではブース展示を行い、保護活動の取組を発信するようにした。今後、地域の公民館などと連携をし、より幅広く保護啓発活動を行っていく予定である。
REPORT
【活動による成果・効果または活動によって今後期待できること】
飼育実験より、生存率が高くなる飼育条件は、屋外よりも室内の方で、水槽は大きい方がよく、幼生1匹あたり約7.3㎠以上は必要であることがわかった。変態時期が早くなる飼育条件は、室内よりも屋外で、すべての個体が変態する期間も屋外の方が短かった。つまり、生存率を高く維持し、より早く変態を促すためには、大きい水槽で、屋外でも直射日光があまり当たらない木陰での飼育条件が適していることがわかった。幼生飼育時における水温管理が課題であることがわかったため、直射日光が当たる時間を調整し、また鳥などの捕食者回避の対策を行う必要がある。室内飼育では生存率が高いが、幼体変態時期が屋外飼育と比べて遅くなるため、その後の成長に影響が出るのか、越冬まで飼育を続け、変態後の成長率も含めて、よりよい飼育方法の確立を目指したい。そして、この結果を踏まえ飼育方法をマニュアル化し、一般家庭での本種にとっての最適な飼育を可能にしたいと考える。これにより、里親プロジェクトでの生存率を高め、緊急的な個体数の回復に貢献できる。
観察会を実施することで、まだまだ知名度の低い本種を知るきっかけになり、また身近な田んぼの生き物が絶滅の危機に瀕している現状に気づくことで、自然に対する意識に変化が生まれると期待できる。実際に、校内で引き続き飼育している幼体にエサであるダンゴムシやミミズを探して与えてくれる生徒が増え、保護活動の輪が広がってきている。
【アピールポイント(活動において特に工夫したこと、注意・注目したことなど)】
私たちは活動に取り組む中で、まずは知ってもらうことを大切にしてきた。昨年は高校1年生の生命科学コースの生徒を中心に里親プロジェクトに取り組んだが、ほぼ全員が名前を聞いたことがなく、知らなかった。環境問題についても学校で考える程度の生徒たちだったので、おかやま大野ダルマガエル保全プロジェクトの方々が保護活動を実践していることを知り、素晴らしいことだと感銘を受けた生徒も多い。1年生で飼育に真剣に参加し、保護サイトの近くに住んでいる生徒が実際に冬場の保護サイト整備活動に参加し、今年2年生で主体的に課題研究として取り組むことになり、活動が本格化していった。今年の飼育数は100匹以上、緊張しながら毎日カエルたちのようすを確認し、死亡個体がいたときには、ショックを受けながら一生懸命世話を行った。また、実際の生息地にも足を運び、産卵前には夜の鳴き声調査に参加、保護プロジェクトの勉強会にも毎回参加して発表を行うなど、学校以外の活動にも積極的に取り組んだ。
私たちは観察会などを通じて、豊かな暮らしの裏に、絶滅しかけている動物がいること、その動物を保護するためには人の手が必要であることを理解してもらえるように注意している。また、発表大会やイベントを通して多くの人から様々な意見や助言を聞く交流の場を大事にし、人との繋がりも大切にしている。これらの活動によって、若い世代が環境について考えるベースとなり、行動のきっかけになればと考えている。