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【学校名】

奈良県立磯城野高等学校①

【活動タイトル】

しきのSDGsプロジェクト いきものいっぱい!ならプロジェクト

【活動内容】

 私たちの奈良県立磯城野高等学校は、「農業科」と「家庭科」からなる専門高校です。生き物好きが集まり、それぞれの専門科目で学んだことを活かし、取組を進めています。専門科目との関連については、農業科は農場で生き物に関わることが多いので、想像が付きやすいと思いますが、家庭科は、採集用の網の手入れや麻袋の加工での縫いもの、また福祉交流花壇においては、お年寄りとの交流で専門性を発揮しています。

 この3年間程の活動内容を紹介します。私たちは、コロナ禍の中、SDGs15の校内の生き物調べから取組を始めました。また、同時にSDGs12の企業廃棄物の農園芸での利用についても実験を行っていました。生き物調べの成果は、「奈良県立野生生物目録」にまとめ、確認種数は約770種になりました。また奈良県レッドリストに記載されている種は29種もいました。ちょうど、J-GAP認証への申請で野生生物目録が必要でしたので、この目録はたいへん役に立ちました。そして、田原本町の生物多様性のPRを行うため、学校の最寄り駅の花壇を「蝶から広める生物多様性」をテーマに整備しています。しかし、今から2年前は、まだまだコロナで休校となることが多く、管理が追いつかなくなることもよくありました。そこで、この管理を人通りの少ない早朝に散歩をしているお年寄りの方にお願いし、お年寄りの方の健康増進につなげるようにしました。田原本町にもこの考えを提案したところ、「地域ケア推進会議」を設置していただき、全面的に協力していただけることになりました。町内の学校や園、町役場、社会福祉会館等に企業廃棄物を利用したバタフライガーデンを設置し、蝶で町の生物多様性を広報しています。さらに一部の花壇は福祉交流花壇とし、近隣のお年寄りに日常管理をお願いすることでお年寄りの方々の健康増進につなげています。これらはSDGs3、4、11につなげています。そして、私たち自身も地域ケア推進会議を通じて、コーディネーターの役割を担当することになりました。また、校内でできる企業廃棄物の利用の研究については継続し、廃棄麻袋を使った「袋栽培やマルチ代用」の研究、廃棄酒粕を使った「酒粕柿」の栽培、廃棄酒粕の肥料づくり、ミミズ養殖場の廃棄糞土を使った培養土「ミミズふふふ~ん土」の開発を行っています。SDGs12につなげています。また、これらの廃棄物は町内に広がったバタフライガーデンでも活用してもらうようにしました。さらに生き物調べの経験を活かし、SDGs15の「生き物調べサポーター」として各地の田んぼの生き物観察会のサポートもしています。そして、奈良県レッドリスト改訂に向けた調査、主に貝類の調査も手伝っています。他に個々の生物種について、調査・研究も行っています。現在の研究テーマは「①ナラノヤエザクラの挿し木」「②3倍体ヒガンバナの種子の稔性」「③ナガオカモノアラガイの生活史」「④コハクオナジマイマイの生活史」「⑤スクミリンゴガイの被害抑制と天敵による捕食増進」「⑥奈良系統シコクビエの栽培復活に向けた新たな活用法」です。新発見も多く、まとまれば学会等で発表しています。①についてはこの1月に発根を確認しています。特殊な密閉挿しを行っています(SDGs9)。挿し木ができないといわれているので「ゼロが1になるだけでもすごいこと。」と専門家から高評を得ています。②については、一昨年に種子を得た個体は、昨年、染色体が3倍体と確認ができています。次はこの種子の染色体を確認する予定です。しかし、調査地は昨年からコハクオナジマイマイが大発生しており、ヒガンバナの子房を好んで食べるため、種子を得ることができるか、不明です。③については夏の異常高温により個体数が大きく減少していることが分かってきました。温暖化の影響をまともに受けている可能性が高いです。昨夏から急に減り、今シーズンは見付けるのがたいへんなほどです。日によってはまったく見つからないこともよくあるようになってきました。代わりにヒメオカモノアラガイと思われるオカモノアラガイが増えています。また、ヒメオカモノアラガイと思っていた中に大型のオカモノアラガイが混ざっていることが分かってきました。ケショウオカモノアラガイかもしれません。④については越冬を確認しました。日本初記録と思われます。間もなく「南紀生物」で発表する予定です。⑤については、今回、被害抑制に成功しているが、天敵による捕食は確認できませんでした。農家の方から天敵が捕食しているところの目撃情報はあるのですが、映像で確認ができていません。奈良女子大学の遊佐教授も関心を持たれ、トレイルカメラを貸してくださいましたが、残念ながら写っていませんでした。このテーマで農林水産省の「みどりチャレンジ」に参加しています。⑥については、ニワトリの餌としての利用に向け、準備を進めているところです。シコクビエの種子を餌として食べてくれることは分かりました。来年、大量に栽培し、ニワトリの卵への効果を調べる予定です。健康成分が見つかるかもしれません(SDGs2、3)。奈良県のシコクビエ栽培はほとんど栽培されていません。現在、奈良系統のシコクビエ栽培は、奈良教育大学と私たちの学校だけです。有効成分を含む卵を産ませることができたら、再び奈良県でシコクビエ栽培を復活できるかもしれません。

奈良県には、自然史博物館や生物多様性センターがありません。そこで、私たちがミニ生物多様性センターになろうと、今、一歩を踏み出したところです。

REPORT

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✨PR資料


【活動による成果・効果または活動によって今後期待できること】

 奈良県には、県立の自然史博物館や生物多様性センターはありません。そのため、奈良県立磯城野高等学校野生生物目録を作るとき、過去の地元の生物相に関係する情報を集めるのに苦労しました。この野生生物目録を活かし、学校の農場を自然共生サイトに登録をしたいと考えています。30by30にはアライアンスには入りました。登録後は、地元の子どもたちを対象とした生き物観察会を学校の農場で実施したいと思っています(今は、子どもたちの保険の問題等があり、実施できていません。)。また、バタフライガーデンを福祉交流花壇化した際、お年寄りとの会話が増えました。その中で、昔、地元にいた野生生物の情報もたくさん聞かせてもらっています。学校がミニ生物多様性センターになることで、過去の野生生物の情報も集めることができると思っています。今のところ、空き教室はありませんが、空き教室ができたら、奈良県の標本を保管していきたいと思っています。先日の新聞報道でもありましたが、奈良県が標本の受け入れ体制がないまま奈良県立大学で標本を預かり、処分してしまったと聞いています。私たちも旧校舎に標本を入れていましたが、新校舎にスペースがなかったため、いわゆる普通種の標本は処分せざるを得なかったと聞いています。奈良県としては、標本は管理のできる他府県にお願いするとのことですが、そうなると希少種の標本は預かってもらえても、いわゆる普通種の標本まで預かってもらうのはその量からして難しいと思っています。

 かなりの年数がかかると思いますが、私たちの学校がミニ生物多様性センターとして機能し、学校の農場で生物多様性を学び、自然豊かな奈良県ならでは生き物の情報がわかる場所にしていきたいと思っています。

【アピールポイント(活動において特に工夫したこと、注意・注目したことなど)】

 奈良県立磯城野高等学校野生生物目録を作る時、種の同定にはたいへん苦労しました。奈良県にはなら生物多様性保全ネットワークがあり、ここに参加している専門家の方々に助けていただきました。各地の生き物調べの手伝いをするきっかけは、野生生物目録作りで身に付けた採集技術を活かせると思ったからです。「田んぼの水族館」で繋がりがあった奈良県食農部農村振興課が子ども向けの田んぼや用水路の生き物観察会を行っているところに私たちのことを広報してくださいました。昨年は4ケ所も回ることができました。子どもたちに生物多様性を知ってもらう機会になっています。校内にも里道が通っており、里道を利用する一般の方に向けて「田んぼの水族館-しきのサテライト-」を設置していましたが、この4月から防犯上の理由で里道の通行が自由にできなくなってしまいました。近くの生涯学習センターに移すことを検討していますが、遠いため、管理の問題がまだ解決していません。また、なら生物多様性保全ネットワークの専門家の方から奈良県レッドリストの改訂に向けた調査も呼ばれるようになりました。淡水二枚貝、昨年はイシガイ、今年はタガイ・ヌマガイ(予定)の調査をしています。さらに、この目録を作ってきたためか、アンテナを張って生き物を見るようになりました。そうなると新発見が続々出てきています。例えば、国内外来種であるコハクオナジマイマイは越冬せず、従来、一年生といわれていましたが、越冬個体を発見してしまいました。初記録です。近々、発表します。

 次に、生物多様性をチョウでPRするバタフライガーデンは、その維持管理に地域のお年寄りの力を借り、お年寄りの方の健康増進につながっています。日本鱗翅学会第69回大会のポスター発表に招待され、発表したところ、各地でバタフライガーデンの整備をしている方々から、「素晴らしいアイデア、ぜひ取り入れたい。」とコメントいただきました。田原本町も支援をしていただき、町役場内に「地域ケア推進会議」を設置してくださいました。私たちもメンバーの一員です。

個々の生物種に関する研究では、自分たちの工夫で何ができるか、どこまでできるかに拘っています。ナラノヤエザクラはポップコーンの入れ物を見て、究極の密閉挿しを思いつきました。

これらのミニ生物多様性センターに向けての取組について、この夏、愛媛県の「つなげ!生物多様性高校生チャレンジシップ」に呼ばれて発表をしてきました。「高校生とは思えない、地域を巻き込む活動がスゴイ!学びを楽しむ高校生の皆さんの笑顔が印象的」とコメントをいただきました。たいへんうれしかったです。

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