【学校名】
山形県立山形西高等学校
【活動タイトル】
小学生といっしょに在来のメダカで環境学習
【活動内容】
2018年の4月に山形市内の小学校で環境学習の一環として敷地内にある人工池をビオトープとして活用していくということを小学校の先生より聞いて、ビオトープづくりを手伝いながら在来生物の生息状況や環境の変化について小学校の児童と共に学んできた。山形県内に生息しているメダカはキタノメダカであり、ペットショップなどで販売されているヒメダカ(ミナミメダカ)と種が異なる。山形大学による分子遺伝学的解析に研究により、山形県内のキタノメダカは内陸地方のA5グループ、日本海側の庄内地方と内陸北部の最上地方のA1グループ分類されることがわかっている。
現在は山形市内でキタノメダカの生息は確認されていないため、山形市内に生息していたキタノメダカと同じグループであるA5に属しているキタノメダカを山形市外の生息地から採集して、ビオトープに放流した。キタノメダカは順調に数を増やし、数百匹以上になっている。小学校のビオトープの生物調査と清掃活動に興味を持った小学生といっしょに行っている。キタノメダカの数が増えたことで、ヤゴやミズカマキリなどに加え、マツモムシも確認することができた。水生昆虫の数も当初より多くなってきている。調査と清掃活動に、この小学校の卒業生の中学生も参加し、私たちと一緒に活動を行っている。
活動を他の小学校にも広げたいと思い、プラスチック製のコンテナを利用した簡易ビオトープの研究を始めた。コンテナを屋外に設置し、キタノメダカの飼育を始めた。冬の寒い日には表面に氷が張ることもあったが、底までは凍ることがなく、キタノメダカは無事に冬を越すことができた。5月には産卵と稚魚を確認した。気温が35℃を超える猛暑でも順調に生育している。1年を通して、簡易ビオトープでキタノメダカの飼育をできる目途がつき、小学校の敷地内にキタノメダカをコンテナに入れた簡易ビオトープを設置してもらうことになった。
山形県内のキタノメダカは、A5、A1の2つのグループが分布しており、それぞれのキタノメダカを高校内で繁殖させている。高校内で繁殖・維持できるようになったことにより県内全域小学校にこの活動を広げることが可能になった。今までに山形市内の3校、市外の3校、計6校の小学校に簡易ビオトープを活用してもらい、キタノメダカの生息状況や水生昆虫などの生物の変化をいっしょに見守っている。
REPORT
【活動による成果・効果または活動によって今後期待できること】
〇小学校のビオトープでキタノメダカが繁殖できた。繁殖したメダカが放流した在来のキタノメダカ(A5)であることをPCR法を用いた分子遺伝学的手法で確認している。この小学校の5年生のメダカの学習は、ミナミメダカであるヒメダカではなく在来のメダカであるキタノメダカを使えるようになった。キタノメダカだけでなく、水生昆虫も以前より多く見られるようになったため、在来生物の観察場所としてビオトープを活用できるようになった。
〇簡易ビオトープの研究がうまくいったことでの他の小学校でも同じような環境学習を行える環境を整えられるようになった。現在までに山形県内6校の小学校に簡易ビオトープを設置した。小学校の児童といっしょに小学校の敷地内に、観察を継続して行っている。
〇山形県内に自然分布しているA1とA5グループに属するキタノメダカを採集してきて、それぞれ繁殖させることができた。キタノメダカの生息地が少なくなっている現状で、山形県内に生息しているキタノメダカを繁殖させることができ、山形県内全域で簡易ビオトープを使った環境学習を行える体制が整った。
〇小学校のビオトープの維持管理と生物の調査を小学生とこの小学校の卒業生である中高生も一緒に行うようになった。この輪をさらに広げ、地域でビオトープを中心とした自然環境に興味をもってもらうことのできる活動としていきたい。
〇それぞれの地域に生息しているキタノメダカと簡易ビオトープを小学校内に設置させてもらい、キタノメダカを通して在来生物と地域の自然環境への理解を県内全域の小学生とともに深めていきたい。
〇県内に残っている野生のキタノメダカ生息地の調査を継続的に行い、地元の小学校といっしょに保全する活動を行っていく。
【アピールポイント(活動において特に工夫したこと、注意・注目したことなど)】
〇小学生といっしょに行ってきた活動である。
活動前に私たち高校生が調べたことや考えを小学生にわかりやすく伝える準備をしたが、一方的に小学生に説明するという形ではなく、同じ目線で考え、結論を出してから行動に移すことを心掛けた。ビオトープについては、在来のメダカであるキタノメダカ以外の生き物は放流せず、自然状態で生き物が増えたり、減ったりする様子を観察することにした。小学生からは金魚やコイなどを放流したらよいのではないかという声もあったが、在来生物のキタノメダカを中心とした生き物の変化を観察することを目的とすることを丁寧に説明し、理解してもらった。
〇ビオトープの調査と維持・管理する輪が広がってきた
キタノメダカやビオトープに興味を持って小学校を卒業してからもビオトープの生物調査や清掃活動に参加し続けている中学生がいる。さらに、この活動を聞いたこの小学校の卒業生である高校生も活動に参加するようになった。今のところ、参加者がそれほど多いわけではないが、地域でビオトープを維持・管理する体制ができてきた。
〇ビオトープで増えたメダカが在来のキタノメダカであると確認
ビオトープで増えたメダカのヒレを生存に影響を与えない程度に切り取って、宇都宮大学に持参し、PCR法を用いた分子遺伝学的手法で解析をおこなった。解析結果から増えたメダカは放流したキタノメダカが増えたもので、ミナミメダカや他の地域のキタノメダカではないということが確認できた。このこともわかりやすく、小学生に伝えることができた。
〇池などのビオトープが無い小学校でも環境学習ができるようになった。
ビオトープとして利用できる池などが無い小学校向けに簡易ビオトープの研究を行った。プラスチック製のコンテナを利用し、キタノメダカの繁殖と1年を通した生育を確認することができた。簡易ビオトープを山形市内の2つの小学校に設置し、同じようにキタノメダカが繁殖することを確認できている。簡易ビオトープとして身近な生物の学習に利用することができるようになった。
〇山形県内に活動を広げるために
山形県内に自然分布しているA1とA5グループに属するキタノメダカを繁殖させることができるようなった。生息地が減少している山形県内の2つのグループのキタノメダカを維持していくことは、小学生との環境学習を行うためだけでなく、希少な野生生物の保護の観点からも重要である。