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【学校名】

愛知県立佐屋高等学校

【活動タイトル】

ナゴヤダルマガエルと水生昆虫の保全活動

【活動内容】

 本校科学部は令和元年より水田生態系の保全活動を行っている。これまでに外来種であるスクミリンゴガイの生態や、希少種になりつつあるドジョウの生息数に関する調査で、一定の成果を収めてきた。これらの調査研究を通じで、水生昆虫やナゴヤダルマガエルが本校水田や周辺地域の水田に多く生息することが分かってきた。稲作では従来、殺虫剤使用によるヤゴやその他水生昆虫類への影響が指摘されている。本校水田でも有機栽培と慣行栽培を行っているが、令和5年から開始した水生昆虫の生息調査では、慣行水田及び水田の中央を流れる土水路でも、ヤゴやガムシ類、ゲンゴロウ類などの生息が確認された。慣行水田はナゴヤダルマガエルの一大生息地であることも再認識した。

(1)令和5年度の調査研究活動 

 令和5年冬から翌春にかけて、稲わらを利用してナゴヤダルマガエルと水生昆虫類の保全への取組も開始した。現地での越冬状況の調査、稲わらの被覆程度の違いによるナゴヤダルマガエルの越冬への影響なども実験を行った。


(2)令和6年度の調査研究活動

 令和6年春からは慣行水田内、土水路の畦に稲わらを被覆した実験区を設け、ナゴヤダルマガエルや水生昆虫類の生息動向も調査した。稲わらの長さは越冬実験の結果を検証するため、短く切断したもの、稲刈り後の収集後から長いままのものの2種の実験区を設定した。稲わら被覆区では、水田入水後からガムシ類やゲンゴロウ類が見られた。オタマジャクシやナゴヤダルマガエルも5月中旬から増加した。中干し後からは、稲わらの風化が激しかったため、代用としてトウモロコシ収穫後の残渣で畦を被覆した。トウモロコシ被覆区と風化が激しい稲わら被覆区の比較は難しいが、トウモロコシ被覆区にはナゴヤダルマガエルが多く確認された。室内で飼育箱を用い、稲わらとトウモロコシ被覆、どちらを好むのか調査もした。昨年度からの水生昆虫類の調査も引き続き実施中である。


(3)普及活動

 水田生態系への理解を広めるため、令和5年秋から積極的に普及活動にも取り組んでいる。名古屋市内で行われた名古屋市環境局なごや生物多様性センターまつりでは、ナゴヤダルマガエルや水生昆虫類の生態展示や認知度のアンケート。稲わらの無償配布を行った。学校祭でも同様のアンケートや生態展示や、小中学生を対象にナゴヤダルマガエルのイラストの塗り絵も行い、子どもたちに興味関心とナゴヤダルマガエルが何色のカエルと考えているのか意識調査もした。

令和6年からは水田生態系への理解を更に広めるため、地元小学生と保護者を対象にした農業・自然教室も定期的に開催し、生物や自然環境の保護への理解を広めている。

REPORT

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【活動による成果・効果または活動によって今後期待できること】

成果① 稲わらが及ぼすナゴヤダルマガエルへの越冬効果

 実験は自作の飼育箱を用いて行った。地面に置かれる稲わらの長さがナゴヤダルマガエルの越冬生活に影響を及ぼすか調べた。短い稲わらより、長い稲わらを好んで越冬することが判明した。


成果② 水田現地での越冬調査

 慣行水田に隣接する本校テニスコートのコンクリート基礎部分に沿って、越冬穴が多くあった。このカ所は、水田の際部でもあるため、雑草や残された稲わらも多い。コンクリート基礎部分は割れ目も多数あり、越冬穴から飛び出した個体が隠れたたりもした。そのため、ナゴヤダルマガエルの越冬には、越冬穴以外に周囲に隠れやすいものがあるかによって、影響することも判明した。


成果③ 越冬個体の大きさ

 令和6年4月に慣行水田で越冬個体を採捕し、胴体長を計測した。結果から採捕した個体の多くが前年度誕生した個体であることが判明した。親個体の多くは水田から離れた場所での越冬が考えられる。


成果④ 稲わらを土水路畦部に置くことによるカエル類、水生生物への影響

 土水路に稲わらの長さを変えて置いた実験区と、何も置かない対象区を比較した結果、明らかに稲わらを置いた方に、ナゴヤダルマガエルや水生生物は多く存在した。飼育箱を用いた越冬実験では長い稲わらの方が好む結果であったが、現地の実験でも確認できた。稲わらの被覆効果は、特にガムシ類やコオイムシの孵化後の幼虫にも隠れ場として好まれ、ヒメタニシなど貝類も多く確認できた。畦に稲わらを置いて生物を保全する効果は期待できると考える。稲わら被覆以外でも田植えで余った苗を置いた場合やトウモロコシの残渣を置いた場合も、ナゴヤダルマガエルや水生昆虫は確認できた。雑草を除去し、植物残渣を置くことは、生物類の保全に十分役立つと考えられる。


成果⑤ 普及活動

 昨年秋のなごや生物多様性センターまつりや学校の文化祭で、ナゴヤダルマガエルをトノサマガエルと間違える人が多いことも分かった。成体展示を通じて、水田には多くの生物が宿ること、そして生物を残すためには水田生態系を守ることを訴えることができた。稲わらの利用方法も普及することができた。令和6年度からの農業・自然教室も成功し、水田生態系保全への理解促進に役立っている。

【アピールポイント(活動において特に工夫したこと、注意・注目したことなど)】

(1)高校生ができる取組は何かを常に意識

 特に本校は農業科がある専門高校で、この取組に係わる生徒は全て農業科の稲作専攻生でもある。そのため授業での学びを、科学部での調査研究に応用することも考えながら活動した。稲わらの回収方法では、自作の回収機を作成した。稲わら回収後、実験に使わなかった稲わらの再利用方法も考え、稲わらマルチによる園芸利用や、稲わらからマッシュルームの生産にも挑戦した。水田内の越冬調査から、越冬穴の深さを測定し、田起こしの時にナゴヤダルマガエルが巻き込まれないための耕うんの深さも検討した。中干し時、水生生物類の保護のため土水路への水田内の水の誘導もした。


(2)生物を観察する目の育成

 ナゴヤダルマガエルやその他カエル類は、生徒でも簡単に見分けることができる。しかし、オタマジャクシ、さらには小さなゲンゴロウ類など大人でも図鑑を頼りに調べないと分からない生物が水田には多く存在する。生徒たちは調査活動を通じて、生物種の分類やどこに生物が生息するかを考えるようになった。この観察する目は、農業・自然教室で大いに役立つこととなった。


(3)稲わらやトウモロコシ残渣の土水路畦での被覆効果から今後の保全活動への応用

 水田での稲作は、雑草との戦いでもある。畦草刈りの負担も大きく、生物の保全には高刈りがよいと言われているが、実践には勇気がいる。しかし、使用しない稲わらや今回実験で用いた栽培後の植物残渣畦の水際部へ置くだけの利用でも、カエル類やその他生物の保全に期待できる効果があることが判明した。越冬調査で、隠れ場所がある場所に当歳個体は多く越冬することが判明したため、稲刈り後、稲わらやその他作物残渣を置くことで、カエル類が安心できる越冬場所が作ることも期待できる。


(4)水田の応援団づくり

 令和6年から開始した農業・自然教室は毎回、多数の児童、保護者が参加し、大好評である。子どもたちと一緒に行った田植えでは、子どもたちは水中で見るドジョウやオタマジャクシに歓声を上げ、田植え後は、泥んこになりながら捕まえるのに夢中になった。毎回、出席を楽しみにする親子が多く、まさに水田の応援団づくりが可能な教室となった。


(5)生徒の科学的判断力、人間性の育成

 この取組は、カエル類の研究者である帯広畜産大学畜産学部農業環境工学ユニットの中島直久助教と毎月、zoomでの指導も行われており、生徒たちが自ら得た結果を、科学的知見により判断できる能力の育成も培うことができた。

 中島直久助教以外にも、国立研究開発法人土木研究所自然共生研究センターの研究者をはじめ、生態工学の研究者や、名古屋市立大学の理学系の研究者などから指導を受けている。

名城大学農学部の野生生物を研究するサークルで活動する大学生たちと交流し、科学的知識以外にも社会で生活するための教養、人間性を養うことができた。

【学校ホームページ】
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