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【学校名】

福島大学附属中学校

【活動タイトル】

環境の保全・管理の重要性を広める生徒主体のビオトープの活動

【活動内容】

1 生徒たちの発案でつくりはじめた中庭ビオトープ        「生徒たちが自発的に行う活動」

 令和5年5月上旬、1年生の理科の授業で「いろいろな生物とその共通点」という約25時間で構成される単元の学習で,学習計画を立てている際、生徒から「中庭が本物の生物を観察できる自然の理科室になれば,実物を観察して学びを深められるだろう」という案が挙げられ、当該学級から中庭の空間をビオトープとして活用していくことについて担当の理科教員へ提案があった。その提案を職員会議の議題として取り上げ、先生方で議論し、生徒たちの手で中庭の環境づくりを始めることについて学校として許可を出した。全校生徒で中庭の環境を考えていきたいという願いから、発案した学級の生徒たちが中心となり、校内ビオトープ案コンテストを実施し、中庭の環境づくり案を募集した。生徒たちの主体的な姿を見た美術科の教員が「レイアウト・構図」の授業の中で、ビオトープをテーマに学習を行った。また、理科を担当する教員が中心となり、総合的な学習の時間の環境学習で、環境保全の取組や身近な環境調査を行った。そのため、多くの生徒たちがさらに興味・関心をもって、校内ビオトープ案コンテストに臨んでいた。結果として、全校生徒から100点以上の応募があり、最優秀賞や優秀賞に選ばれた生徒の案を基に、活動の目標を決め、中庭の環境づくりを生徒たちが始めた。ビオトープ案コンテストに出品された作品を基に、本校のビオトープに、「生物多様性を中庭のビオトープで実感できるように」という大きな目標を立て、3つの目標を設定した。具体的には、「1  福島市の鳥『シジュウカラ』が中庭にやってくる」「2 トンボがビオトープ内の池に産卵し、ヤゴの羽化を観察する」「3 生物種が自然発生で5種類以上観察できるようになる」である。これからのビオトープ活動を維持・管理をしていくために、ビオトープ管理委員会という有志団体も組織した。令和5年6月から始めた中庭の環境づくりでは、生物たちにとっての生息場所、休憩場所、繁殖場所となる水場をつくるため、何日もかけて土を掘り、福島県の概形を型どった池をつくったり、草原の区域をつくるために、校地内からススキやチガヤを移植したりして環境づくりを始めた。草原の区域をつくるのは、国土地理院のデータから確認した1970年代の航空写真によると、本校が立地している場所に草原が多く存在していたことがわかり、過去の環境の復元という視点で実施したものである。この考え方は、福島大学の生物を専門とする教員による授業で生徒たちが学んだことである。このように、本校は、福島大学の附属学校であるため、生物を専門とする大学教員から、ビオトープの考え方、環境保全の考え方を学びながら、環境保全活動を行っている。令和5年7月1日から令和6年9月20日までに大学教員を講師に招いて、講義や体験活動を行った授業時数は、全学年合計で約30時間になる。


2 生徒たちがビオトープ活動を波及させる取組                  「広める活動」

 令和5年10月27日に「ふくしまビオトープ子どもサミット」を本校のビオトープ管理委員(令和5年6月下旬に有志団体として設立)の生徒たちが主催で、オンラインにて開催した。このサミットは、福島県内の小中学生でビオトープをテーマとした環境保全について、取組や今後の活動の展望について意見交換することで、福島県内の環境保全につながっていくことを目的として実施した。サミットの案内は、福島県内の全小中学校に送付し、8校総勢50名の生徒の申し込みがあった。大人は介入せず、子どもたちだけで環境保全について、具体的な取組を紹介したり、課題としていることに意見を求めたりしたことで、活発な意見交換ができた。サミット後には、ビオトープ活動を生徒会執行部が中心となって取り組み始めた学校もあった。福島県内での活動の意義や広がりを踏まえ、令和6年10月2日に「第2回ふくしまビオトープ子どもサミット」をオンラインで開催する。

 また、生徒たちが教員や教育実習生向けにビオトープ活動を発信した事例も複数回行った。1番大きな発信の機会は、令和5年10月30日、11月1日に開催した学校公開である。学校公開に参加した約330名の教育関係者に「環境保全の意識を高め、生物多様性を目指していく中庭ビオトープ活動」をテーマに代表生徒10名が発表し、参加した教育関係者からの質疑にも生徒たちが対応した。参加した教育関係者が回答したアンケートには、「いきいきと発表している姿がとても美しかった。発表後に『自分たちが目指すビオトープのゴール、理想像』について質問させていただいたが、それについても自分なりの考えを述べており、大変感心した。これからも、自分たちが目指すビオトープの実現に向けて、励んでほしいと思う。」や「1~3学年の生徒たち自らの手で、企画・運営・管理をしていることが素晴らしいと感じた。問いをもち、探究していくことで意欲的に活動できるのだと実感した。」という感想が挙げられた。


3 シジュウカラを呼ぶビオトープを目指し,校内巣箱づくりコンテストを実施

「親しむ活動」  「理解する活動」  「守る活動」  「地域とつながる活動」

 本校では、「シジュウカラが学校にやってくる」という目標を掲げ活動している。目標に掲げたシジュウカラは、福島市の鳥に制定されている野鳥である。本校から、約1.5㎞の位置に「福島市小鳥の森ネイチャーセンター」という市営の施設がある。令和6年6月に福島市小鳥の森ネイチャーセンターから講師の先生をお招きし、1・3学年の生徒約280名が講話を受講した。講話のテーマは、「シジュウカラを呼ぶビオトープ」である。この講話を実施するきっかけは、「本校のビオトープの目標に『シジュウカラが学校にやってくる』というものがあるため、実際に福島市小鳥の森ネイチャーセンターで働く専門の先生の方から、野鳥の誘致について学ぶことが大切ではないか」という意見が3年生の総合的な学習の時間の授業で出されたことである。当日の講話では、野鳥が休息するために必要な木々や水場についての知識、巣箱の設置による繁殖場所の提供についてアドバイスをいただいた。シジュウカラのからだの大きさやそのからだに適した巣箱の大きさ、巣箱の穴の大きさなど生態に合わせて、大きさや設置する場所、面積当たりの個数など専門的な助言をいただいた。このことをきっかけに、ビオトープ管理委員会では、令和6年7月から中庭の木に巣箱を設置する計画を立て始めた。ビオトープ管理委員会の話合いの中で、3年生のビオトープ管理委員を中心に「校内巣箱づくりコンテスト」を企画し、令和6年9月11日を締め切りとして、コンテストを実施することになった。締め切りまでに、1年生の授業では、総合的な学習の時間で、SDGsの観点を踏まえた巣箱づくりの学習を行った。具体的には、これまでの技術科の授業ででた木材の端材を活用し、巣箱づくりをグループごとに行うというものである。また,美術科の教員を講師として、巣箱の防腐処理ややすりをつかった仕上げ作業を行った。結果として校内巣箱づくりコンテストには、全校生徒から、25グループ、70名の応募があった。企画と運営を行った3年生のビオトープ管理委員が審査員として、最優秀賞1点,優秀賞3点,入選4点を選抜した。令和6年9月19日に福島市小鳥の森ネイチャーセンターから再度、講師の先生をお招きし、生徒たちと一緒に最優秀賞と優秀賞の計4点を中庭に設置、入選の4点を約3500㎡の外庭に設置した。

REPORT

【活動による成果・効果または活動によって今後期待できること】

1 生徒主体でビオトープを管理する有志団体の設立        「生徒たちが自発的に行う活動」

 令和5年6月下旬に「ビオトープ管理委員会」という有志団体の設立を希望する意見が、代表生徒の会議である評議員会(学級委員長、学級副委員長、常設委員長、生徒会執行部で運営する会)にて挙げられた。1年生が発案したビオトープが様々な授業に生かされていて、活性化されている反面、管理する組織がないので、誰が中心となってビオトープの活動を呼び掛けたり、休み時間などに管理活動をしたりするかがあいまいなので、有志であっても組織をつくる必要があるのではないかという提案である。議長の進行のもと、この意見に対して賛成多数となり、有志団体の組織が認められた。そのため、令和5年7月からビオトープ管理委員を中心に中庭のビオトープの管理を行っている。具体的な管理として、観察できた動物(昆虫類,鳥類などが主)の記録、池の水位の確認と水位減少時の雨水の流入による貯水、外来種の駆除、植物の剪定作業などである。令和5年度は、ビオトープ管理委員に28名の生徒が立候補し、任命を受けている。令和6年度は、25名の生徒が立候補し、任命を受けている。本校では、生徒一人一人が委員会に所属する中、有志でビオトープ管理委員会にも所属する生徒が2年連続で20名以上いることはビオトープ活動への意義を見いだし、この活動を発展させようとする生徒たちの意欲であると考えている。総合的な学習の時間における環境学習の企画や運営もビオトープ管理委員会が担当の先生と共に担っており、充実した活動を支えている。


2 本校のビオトープの活動の発信について                    「広める活動」

 令和5年9月以降から生徒が主体的に地域の生徒や保護者、教育関係者に活動を発信するとともに、本校の研究推進を担う校内組織である研究委員会でも教員がビオトープ活動の発信を行ってきた。本校教員が行う各種研修会や教育委員会等から依頼される研修会等でも環境教育の取組の紹介を行ってきた。本校生徒と教員の積極的な発信により、外部機関から資料提供の依頼やWEBサイトへの掲載の依頼が多数届いている。具体的には、文部科学省が取りまとめた「ウェルビーイング向上のための学校施設づくりのアイディア集」に本校の環境教育が掲載されている。また、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)が運営するWEBサイト「サイエンスティーム」にて、本校のビオトープ活動が「教科等横断的実践をつなぐ学校ビオトープの構築」というテーマで掲載されている。このように、生徒たちが主体的に取り組んできている実践が、行政機関等のWEBサイトを通して全国に発信されている。環境保全を目的としたビオトープ活動が本校の生徒の育成に留まるのではなく、次世代の自然保護活動を担う他校の生徒へも発信されていくことは、とても価値のあることだと捉えている。今後も環境教育の実践を発信し、多くの学校に波及させることで、環境保全活動への興味・関心を高め、学校教育から様々な環境保全活動が行われることを願って活動していきたい。


3 地域の方々の来校                        「地域とつながる活動」

 令和5年度から令和6年度に本校のビオトープ活動が新聞やテレビでの報道で複数回取り上げられている。そのため、参観日には、ビオトープを見学したいという保護者が中庭に出入りをする。また、同窓会の会合の際は、多くの同窓生がビオトープを見学する。また、生物多様性の保全に関する学びの提供や、事業活動を行う企業(CLASS EARTH)の方も来校し、生徒たちにインタビューを行ってWEBサイトで自社の取組と本校の取組を関連付けて紹介するなど、地域の方々、企業の方々とも関わりながら、教育活動を行っている。

【アピールポイント(活動において特に工夫したこと、注意・注目したことなど)】

1 生徒の主体性を尊重

 本校では、生徒たちが主体的に取り組もうとする活動について、職員会議などで教職員の共通理解を図り、支援体制を整えている。教育活動において合理的で妥当な提案は、職員会議にて許可をしており、生徒たちの発案に対して、その発案に対する許可、不許可を繰り返してきたことで、生徒たちもより妥当性の高い提案ができるように成長している。令和5年度から本格的に活動しているビオトープ活動においてもその模範的な例である。

 震災からの復興を掲げる福島県では、震災の影響で失われた自然の再生が重視され、環境教育に力を入れた教育活動が推進されている。そのような中、これからの未来を担う本県の生徒たちが、環境保全や生物の保護に目を向け、実体験をしながら学んでいくことはとても重要である。本校は、環境教育の実践を県内外に発信し、学校教育の中で授業と関連して行うことのできる活動を波及させたいと考えている。そのため、地域の小中学生に伝えることで、次世代の環境教育のリーダーの育成に寄与したり、地域の大人、教育関係者に生徒自身の言葉で活動の魅力や意義を伝えることで、教育現場でより多くの実践が行われたりすることを願っている。


2 令和6年度に実施する「ビオトープ活動に関連する自由研究」を理科教員3名でサポート

 学校全体で取り組むビオトープ活動であるため、総合的な学習の時間や理科の授業に多数活用されている。授業以外の教育活動の充実としては、ビオトープや生物全般に関わる自由研究やその他自由研究テーマについても、学びを深められるよう理科教員3名でサポート体制を構築し、生徒の自由研究支援を行った。具体的には、SSH(スーパーサイエンスハイスクール)に指定される福島県立福島高等学校のSS部との連携により、高校生から研究のアドバイスを受ける機会を令和5年度と令和6年度に計4回設定したり、令和6年5月~9月に校内で自由研究相談会を定期的に開催したりした。結果として、生徒たちが本校のビオトープ活動や生物に関わる自由研究を多くの生徒が実践し、特に共同研究を行っていた2チームが令和6年度の福島市理科作品展に出品した結果、令和6年9月4日に最優秀賞と優秀賞の受賞通知が来た。表彰式は、福島市子どもの夢を育む施設こむこむ館にて、9月22日に行われる。最優秀賞を受賞したチームは、「附属中の中庭ビオトープの植物調査」を研究テーマに掲げ、6月~8月の植物の種の同定を行った。本校のビオトープには、「生物種が自然発生で5種類以上観察できるようになる」という目標があるが、現時点で何種類の植物が生息しているのかを調査した。この結果をもとに、継続的に調査を実施する予定になっている。また、調査の中で8月には44種類の植物が生息しており、そのうち5種類の外来種がビオトープ空間に存在していることがわかり、外来種の駆除も行った。なお、自由研究については、福島市理科作品展以外にも福島県教育委員会が主催する中学生・高校生の科学・技術研究論文「野口英世賞」や読売新聞社が主催する日本学生科学賞に出品しており、令和6年11月に結果が出る予定である。


3 福島大学の専門家の先生から継続的な支援体制の構築             「理解する活動」

 福島大学共生システム理工学類の塘忠顕教授と黒沢高秀教授から継続的にビオトープ活動の支援をいただいている。今年度の主な例として、令和6年7月には、中学3年生を対象として、「環境保全における特定外来生物について」をテーマに黒沢教授が講義と野外活動を行ってくださった。野外活動では、黒沢教授の指導のもと、生徒たちが外来種の駆除を行った。令和6年9月には本校の中学1年生と福島市立第三小学校の5年生の児童を対象に、「ビオトープとは何か」とテーマに講義を行ってくださった。福島市立第三小学校は、本校のビオトープ活動を新聞報道で知り、自校のビオトープ活動に生かしたいと考え、小中連携の環境教育を実施してほしいという依頼が届いてこの実践を行った。当日は、本校のビオトープ管理委員の生徒がこれまでの活動を紹介したり、中庭のビオトープを案内したりした。児童たちからは、池の水質の管理方法や生きている外来生物を駆除してもよいか等の質問が挙げられ、本校の生徒が回答できない質問は黒沢教授が専門的知見で回答してくださった。また,同じく令和6年9月には、中学3年生を対象として、「生物を指標とした環境調査法」をテーマに塘教授が講義と野外活動を行ってくださった。中学校3年生の理科の教科書にも記載される土壌生物を指標とした校地内の環境調査法を専門的に解説してくださり、実際に土を採取して、土壌内の生物を同定し、環境を評価した。


4 継続的な環境教育の実施 「生息環境の保全に関わる活動」

 本校では、令和2年度から、水生生物を指標とした河川環境調査を毎年の校外学習として実施している。調査対象の河川は,福島市を流れる荒川である。荒川は,国土交通省の2023(令和5)年河川水質調査で、「水質が最も良好な河川」と評価されており、14年連続で水質「日本一」に輝いている河川である。本校では、福島県環境創造センターが主催する「せせらぎスクール」に参加し、川辺の水環境やその周辺の環境保全に対する意識を高め、川の中に生息している小さな水生生物の種類と数を調べることにより、水の汚れの程度を知り、この美しい川や自然環境を大切に後世に残すため、自分たちに何ができるかを考えるきっかけとなるように教育活動に位置付けている。このような継続的な環境教育が認められ、学会員からの推薦で、令和6年11月9日、10日に開催される日本河川教育学会の全国大会で発表を行うことになった。本校の教員1名と生徒1名、卒業生1名の計3名が水生生物を指標とした河川環境調査の実施をテーマに発表する。

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