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【学校名】

京都府立西舞鶴高等学校

【活動タイトル】

オオミズナギドリ調査を通した地域協働型探究学習と普及啓発活動

【活動内容】

 京都府立西舞鶴高等学校(以下、本校)の冠島調査グループは、京都府舞鶴市沖約15kmに位置する冠島(無人島)において、「京都府の鳥」であるオオミズナギドリの調査と環境保全に向けた普及啓発活動を行っている。この調査は元来、舞鶴市が主催し、京都冠島調査研究会が1980年代から継続して行っている調査であり、本校は2006年から継続して調査に同行し、高校生が主体となってオオミズナギドリの日周行動の調査や地域に向けた発信活動を行うことで、京都府北部の自然や野生生物を対象とした探究活動と保護啓発を実践している。活動は本校理数探究科の希望者10名程度から構成されるプロジェクトチームによるもので、先輩から後輩へと知識・技能・マインドが受け継がれていくことで継続した活動となっている。また、冠島は国の天然記念物として地域指定されており、上陸・鳥類調査の際には環境省や舞鶴市からの許可を得て活動を実施している。高校生による活動は主に以下の三つの柱から構成されている。


1 オオミズナギドリの日周行動調査

 日没帰島時の「鳥周り」と呼ばれる特徴的な飛翔行動と早朝飛び立ち時のそれぞれについて、個体数カウントを実施している。同時に照度も記録し、鳥の行動と光環境の関係性を分析している。また、冠島調査研究会の行う標識調査(オオミズナギドリの標識読み取りや新規標識)の補助を行い、個体の追跡調査に貢献している。冠島は無人島であるため、調査時の渡島や現地での安全な生活空間の確保などは海上自衛隊や環境省の方々の支援と協力を得ることで実施が可能となっている。調査は5月と8月に2泊あるいは3泊の野営を行い、体力的にも過酷な調査活動に従事している。調査前後には学習会やデータ分析会を実施し、調査の質の向上と科学的考察力の育成に努めている。


2 AI・データサイエンスを用いた調査データの分析とデジタルスキル向上

 調査時に取得した数値・動画・音声データを用いてAI・データサイエンスを駆使して高度な解析に挑戦している。プログラミング言語Pythonを用いて、取得した数値データと環境データ(気象庁)を用いて可視化(グラフ、ヒートマップの作成)したり、主成分分析を行ったりするとともに、撮影した動画データからAIを用いた個体数カウントシステムの作成を行っている。また、オオミズナギドリの鳴き声の音声データを用いた新たなモニタリングシステムの構築を目指している。解析には福知山公立大学北近畿地域連携機構の先生や学生と連携し、プログラミングのご指導をいただきながら研究を進めている。


3 YouTubeを通じた発信活動と小中学生を対象とした普及啓発活動

 現地調査で得られた貴重な体験を地域・世界・次世代に伝えることにより、調査の継続と意識啓発を行うためにYouTubeを用いた発信活動や、中学生向けの「発見!理探LABO」、小学生向けの「西高サイエンス・デイ」を開催して本活動の紹介と体験活動を企画・実施している。YouTubeについては、調査活動についてまとめた動画(日本語版と英語版)を作製し、一般公開するとともに、毎回の調査で冠島からLive中継を実施してリアルタイムの配信も行っている。これらの活動により、地域社会のみならず、国際的な視野での情報共有も実現している。さらに、地元の大浦小学校からの依頼を受けて、総合的な学習の時間の講師として小学校での出前講座を行っている。これらの活動すべてにおいて高校生が主体(レポーター・講師)となり、実施している。

REPORT

【活動による成果・効果または活動によって今後期待できること】

1 オオミズナギドリの日周行動調査

 野営を含めたフィールドワークを通じて、高校生が科学的な調査手法を習得し、データ収集、分析、考察能力を培うと同時に、オオミズナギドリの生態を直接観察することで、野生生物保護の重要性を実感し、環境保護への意識が大きく向上している。

 長期的なデータ蓄積により、気候変動の影響や個体数変動のトレンドなど、より深い生態学的研究への発展が期待される。また、卒業後も本調査に参加して活動を継続する大学生を含めた異学年の活動により、自然科学や環境保護に興味を持つ生徒が増え、将来の研究者や環境保護活動家の育成が期待される。


2 AI・データサイエンスを用いた調査データの分析とスキル向上

 AI・データサイエンスを駆使した高度な解析に挑戦することで、生徒のデータ分析スキルが大幅に向上している。AIを活用した個体数カウントシステムや音声データを用いたモニタリングシステムの開発により、より効率的で精度の高い分析手法の確立が期待される。さらに高大連携により、高度な専門知識や最新の研究手法を学ぶ機会が得られ、将来の研究活動への橋渡しとなることが期待される。


3 YouTubeを通じた発信活動と小中学生を対象とした啓発活動

 YouTubeを通じた情報発信や地元小中学生向けのイベントにより、地域社会全体の環境保護意識の向上に寄与している。これに加え、英語での情報発信により国際的視野を獲得し、グローバルな環境問題への関心を高め、さらに発信意欲が高まるという相乗効果が生まれている。さらに、高校生が主体となって情報発信や講座を行うことで、プレゼンテーション能力やコミュニケーション能力が大きく向上している。

【アピールポイント(活動において特に工夫したこと、注意・注目したことなど)】

1 オオミズナギドリの日周行動調査

 高校生が主体となって、事前学習として過去の調査の経験を共有したり、文献を輪読したり、調査の流れをシミュレーションしたりすることで、毎回の調査で安全に安定した結果が得られるような仕組みを構築している。また、冠島調査研究会や調査に同行される専門家の方々に様々な専門的知識・技術を教えていただくことで、高度な調査技術や知識を習得している。


2 AI・データサイエンスを用いた調査データの分析とスキル向上

 AI・データサイエンスを用いた調査データの分析の際に、クラウドを活用することで場所や日時にとらわれず、複数のメンバーがデータを活用する環境で活動を進めた。また、プログラミングでは生成AIを使用することにより、初学者でも必要な知識や技能を習得しながらスキルを向上させることに成功した。より高度な分析のために、福知山公立大学との共同研究により、専門的な指導を受けながら活動を進め、数値データ、動画、音声など多角的なデータを活用し、総合的な研究を展開している。


3 YouTubeを通じた発信活動と小中学生を対象とした啓発活動

 YouTubeやLive配信などのICTツールを積極的に活用し、活動内容を広く発信している。その際、日本語版・英語版の動画を作成し、国際的な情報発信を行っている。また、小中学生向けイベントや出前講座において啓発活動を行う際には、単に話をするだけでなく、オオミズナギドリのペーパークラフトによる帽子作りや調査の疑似体験が可能なアクティビティを発案・開発して、楽しみながらオオミズナギドリを学ぶことができるプラグラムを実施した。

 以上より、野生生物保護活動を実践するにあたり、「探究活動」「社会に開かれた教育課程」「ICT利活用」「デジタル人材の育成」という現代の教育キーワードを包含した活動実践のモデルケースとなっている。

【学校ホームページ】
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