水路に落下していたタマシギのヒナ
圃場整備にともなう農業用水路のコンクリート化は水田を利用する生きものに影響を与えますが、多くの場合は見過ごされています。今回はタマシギの事例を中心にご紹介します。

●はじめに
戦後、日本では機械化農業と生産性の向上を目的とした圃場整備事業が進められ、その結果、水田の生物多様性が著しく低下してきました。その原因として挙げられているのは、
1) 冬季の乾田化、
2) 水田と河川の移動経路の分断化、
3) 水路のコンクリート化といった農地の改変です。
これらの改変は、水田をすみかにしてきた魚類や両生類に不向きな環境をつくり、ひいては水田のもつ鳥の餌場としての機能をも損なわせてきました。
私がフィールドにしている京都府の巨椋池干拓地には広大な農地が広がっていますが、そのほとんどが圃場整備済みの水田です。この地でケリの繁殖生態を調べているわけですが、調査中にタマシギのヒナがコンクリート製水路に落下し、その中から脱出できずにいるところを2例目撃しています。ご存じのとおり、湿地を好むタマシギは、主に農地を繁殖場所にするチドリ目タマシギ科の鳥です(写真1)。近年は、本種の生息地の環境悪化により個体数の減少が懸念されており、環境省レッドリストの絶滅危惧Ⅱ類のほか、京都府レッドリストの絶滅危惧種、京都府の希少野生生物にもそれぞれ指定されています。圃場整備にともなう農業用水路のコンクリート化は、もしかしたらタマシギの繁殖に影響を及ぼしているのではないか。そう考えるようになった私は、少しでも多くの方にこの事実を伝えたいと思い、観察事例を紹介することにしました。
木の上と同様、またはそれ以上に人気があるねぐらが竹藪です。スズメやムクドリ、外来種のワカケホンセイインコなどは群れで、キジバトは少数で竹藪をねぐらにすることがよくあります(写真2)。竹であれば木よりもツルツルしているので登りにくいでしょうし、捕食者が登ってきたら揺れるので群れの誰かが気づき、危険を知らせることで逃げることができます。また、竹藪は枝が多く込み合っているので、フクロウ類やほかの猛禽類などが飛び込んでくる危険も少ないようです。

2010年5月15日、コンクリート製の水路にタマシギの親鳥1羽(オス成鳥)とヒナ3羽が落下しているのを目撃しました(写真2)。水路は幅150 cmほど、高さ120 cmほど、水深5 cmほどで、両側壁が床面に対して垂直な形状をなし、壁面に凹凸はなく、付近に傾斜の緩やかなスロープもありませんでした。この4羽の親子の様子を少し離れて観察したところ、4羽は水路内を一緒に歩いて移動しながら、水の底を嘴でついばむ採餌行動がみられました。ただ、飛翔できる親鳥はともかく、まだ全身を綿羽に覆われたヒナ3羽が水路から自力で這い上がることは不可能と思われました。
2012年4月28日にも、コンクリート製の水路内でタマシギのヒナ3羽を発見しました。水路は幅50 cmほど、高さ30 cmほどで、底に水はなく乾燥していました。親鳥と思われる個体(オス成鳥)が、水路に隣接する水田の端から水路底をのぞき込むような行動をみせましたが、私の存在に気づき田面の中央に歩いて移動しました。水路内のヒナ3羽は全身が綿羽に覆われた状態で、飛ぶことはできませんでした。ヒナたちは水路内に落ちていた空き缶に身を寄せ合い、伏せた状態でじっと動かずにいました(写真3)。

スリランカを訪れた際にワカケホンセイインコのねぐらを案内してもらったのですが、その全てがヤシの木でした。ヤシの木の利点は竹藪と共通する点があります。ヤシの木も枝が無く哺乳類やヘビにとっては登りづらいでしょうし、外敵が樹冠にある葉っぱの方までくれば揺れるのでやはり気づきやすいのでしょう。面白いのがその眠り方で、みんな一様に葉っぱの下に入って両脚を広げて葉っぱを掴みながら寝ていました(写真3)。他にこんな眠り方をしている鳥を見たことがありませんが、日頃からぶら下がったりしながら採餌するワカケホンセイインコにとってはこの様な格好でも辛くないのかもしれません。ヤシの木の葉の下で眠るのは下からは丸見えですが、見えることで逆に下からの捕食者が登ってくることにはやく気づくことができますし、上からの捕食者である猛禽類からは隠れることができ急な襲撃を防げるので好都合なのでしょう。
●ねぐらは外敵次第
以前奄美大島で夜間の動物観察に出かけた際、道路わきの木から道路上に張り出した枝先に2羽で眠っているズアカアオバトに出会いました(写真1)。ズアカアオバトにとって最大の天敵はハブになりますが、ズアカアオバトは枝先で眠ることでたとえハブが近づいてきたとしても枝の揺れで気づき、飛んで逃げることができます。近年ではノネコが野鳥を襲い問題になっていますが、道路に張り出した枝先であればノネコも接近できないでしょう。ルリカケス、オオトラツグミ、アカショウビン、キジバトでは、枝先以外にも電線で眠っている個体もいました(写真4-6)。奄美大島では鳥を襲うような大型のフクロウがいないので、上からの攻撃を気にする必要がなく、電線や枝先といった周りからよく見える場所でも眠ることができるようです。
逆に大型のフクロウがいるような場所では地面から登ってくる哺乳類の攻撃以外にも、上空からの襲撃にも注意が必要になります。フクロウからの攻撃を避ける為には樹洞でねぐらをとることが有効でしょう。フクロウが営巣した巣箱の中の巣材には羽根や骨などの食痕が残されているので、それらを分析するとどのような餌を繁殖期に食べていたのか垣間見ることができますが、実際に巣材を分析すると、樹洞で寝るキツツキ類やカラ類の羽根が出てくることは比較的少ないように感じます。しかし樹洞はヘビに襲われると逃げ●なぜタマシギのヒナは水路に落下するのか
タマシギのオス親はつがいの期間を過ぎた後、ヒナが孵化するまで単独で抱卵を続け、その後もヒナが独立するまで世話を続けることが知られています。今回のようにヒナが水路に落下した場合、少なくとも風切が伸長して飛翔できるようになるまでは、そこから自力で脱出するのは容易なことではありません。
そもそも、なぜタマシギのヒナは水路に落下するのでしょうか。その理由として次の2つのケースがあると考えています。ひとつは親子がともに移動する際、親鳥は軽く羽ばたいて水路の対岸へ渡りますが、その後を歩いて追いかけるヒナが誤って水路に落下するケースです。もうひとつは、水路の底に溜まった植物片や砂泥には、巻貝類(サカマキガイ、スクミリンゴガイなど)やユスリカ類の幼虫、ヨコエビ類、ミズミミズ類が生息しており、これらの底生動物を採食するために親鳥とヒナが自発的に水路に下りるケースです。実際、巨椋池干拓地やその周辺農地では、タマシギの成鳥が水深の浅い水路に下りて底生動物を採食する姿が目撃されており、水路がタマシギの採食場所のひとつになっていることは間違いありません。
●タマシギ以外の鳥も
そのほか京都府内での記録として、脇坂(2021)は「ケリのヒナ」が水路に落下しているのを確認していますし(写真4)、さらに「ヒクイナのヒナ」が水路に落下していたという話も聞いています(井口宏氏・上野りさ子氏 私信)。お察しのとおり、意識して探さないと水路に落下した鳥のヒナを発見するのは難しく、もしかしたらその多くが見過ごされているかもしれません。農地で繁殖する鳥の保全に役立てるためにも、それぞれの種のヒナが水路に落下する場所、落下に至るプロセス、水路内での行動等についての情報を収集することが必要だと考えています。また、今後はコンクリート三面張りの水路にスロープを設けるなどし、水路内のヒナが脱出できるよう工夫することも望まれます。
皆さんのフィールドでも同様のことが起こっていないでしょうか。ヒナが落っこちていないか、ときどき農地内の水路を確認してくださるとありがたいです。


◆謝辞
日本野鳥の会京都支部の井口宏氏・上野りさ子氏には、タマシギ親子の写真および水路に落下していたヒクイナのヒナの観察記録を提供いただきました。梶田学氏には水路や側溝に設置するスロープについての資料を教示いただきました。お世話になった方々に感謝申し上げます。
◆引用文献
脇坂英弥 (2021). コンクリート製の農業用水路に落下していたケリVanellus cinereus の ヒナの観察事例. 人と自然 31: 65−68.

プロフィール
脇坂英弥(わきさか・ひでや)
先日、地元の新聞社の取材に協力したときのこと。記者の方から「ケリの魅力を教えてください」という質問を急にぶつけられ、不覚にも絶句してしまった。しどろもどろになりながら必死に話したものの、どうもピンとこない。結局「なんか好きなんですよね」と記事になり得ないコメントで逃げ切ったのであるが。また、ある連載記事に「ケリは不細工だ」と書いたら、「あんなきれいな鳥を不細工だなんてひどい」と読者の方に怒られたことも。ケリの魅力は何なのか。それを知るために今日もケリを追いかけているのかもしれない。
兵庫県立人と自然の博物館 地域研究員、博士(兵庫県立大学 環境人間学)
