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  • 執筆者の写真藤井 幹

鳥の色と名前

鳥の名前に色が使われている鳥といって何を思い浮かべますか?普通に思い浮かべるのは青がつくアオゲラ(写真1)、アオバト(写真2)、赤がつくアカショウビン(写真3)とか。黄がつくキセキレイ(写真4)というのもありますね。見た目の色が名前に当てられている鳥はたくさんいて、日本鳥学会鳥類目録第7版を見てみると、種名に色に関係する言葉が使われているのは、633種+外来種43種計676種の中で3分の1を優に超えています。色に直接関わる言葉が使われていなくても、ベニマシコ(写真5)やオオマシコなど赤い鳥を猿の赤い顔やお尻に見立てて「猿子(マシコ)」と名付けたり、ユキホオジロのように雪から白を連想させて間接的に色を表現しているものもあります。


写真1.アオゲラ


写真2.アオバト


写真3.アカショウビン


写真4.キセキレイ


写真5.ベニマシコ


色で表現するとその鳥がどんな鳥かイメージしやすいですよね。しかし、現代では名前の色に惑わされることもあるでしょう。私は鳥に興味を持ち始めた人たちに話をするとき、こんな質問をよくします。下記の写真6を見せながら、「いろいろな色の鳥がいますが、クロジ、アカジ、アオジ、キジ、この中で実際には存在しない鳥の名前はどれでしょう?」。写真には黒い鳥や赤い鳥、青い鳥、黄色い鳥が写っていますが、皆さんは惑わされずに直ぐに分かりますよね???

写真6.鳥の名前クイズ


正解はアカジです。写真は左上:アオジ、右上:クロジ、左下:イスカ、右下:ルリビタキです。クロジやアカジにつられて、キジを黄色い鳥だと思い浮かべてしまった方もいるようですが、キジは黄色とは全く関係ないですよね。キジは桃太郎にも出てくる有名な鳥で国鳥でもあります。写真で黄色く見えるのはアオジです。正解をキジ(写真7)と答える方がいると軽くガッツポーズ(笑)。


写真7.キジ


ではもう少し踏み込んでお話していきましょう。ここで出てくるアオジは黄緑色か黄色といった色合いで、青色ではないですよね。冒頭に出てきたアオゲラやアオバトもそうです。鳥を知っている人ならこれらの鳥が緑色だということは直ぐに頭に浮かびます。しかし鳥のことをあまり知らなかったとしたらどうでしょうか。「アオ」が色を表していると伝えれば当然青い鳥と思ってしまうと思います。日本では、昔から緑色のような色を「青い」と言っていました。青リンゴ、青葉など、青色ではなく緑色ですよね。今は青くなっていますが昔は青信号も緑色でした。日本鳥類目録第7版で「ミドリ」とつくのは迷鳥のミドリツバメだけで、あとは見た目の緑色を名前に取り入れている鳥は全て「アオ」と名前につけています。鳥の名前に「アオ」とついていたら緑色の鳥を思い浮かべてみて下さい。では青い鳥のことは何と表現しているか分かりますか?これは「ルリ」という言葉を使っています。写真にも出てきたルリビタキ(写真8)やオオルリ(写真9)がそうです。


写真8.ルリビタキ


写真9.オオルリ


ここまで読んで腑に落ちない種がいることに気づいたなら、かなり鳥に詳しい人です。アオバズク(写真10)は?アオサギ(写真11)は?そう、どちらも緑色ではないですよね。これはちゃんと理由があります。アオバズクは漢字では「青葉木菟」と書きます。これはアオバズクが夏鳥で、青葉が展葉する頃にやってくるフクロウの仲間という意味です。ではアオサギは?これは実は漢字が違います。青ではなく蒼と書きますが、これは青みがかった灰色を意味しています。


写真10.アオバズク


写真11.アオサギ


アオサギのほかにも有名な鳥で「蒼」から名付けられた鳥がいるのをご存知ですか?それはオオタカ(写真12)です。えっ?!と思う人もいるでしょう。元々オオタカは背の灰色が青みがかっていることから蒼鷹(あおたか)と名づけられ、それがいつの間にかオオタカと呼ばれるようになりました。ちなみにハイタカは灰色のタカです。よくオオタカを見て「そんなに大きくないんですね」と感想を述べる方がいますが、そうなのです。元々は大きいからオオタカではないのです。しかしあの仲間のツミ、ハイタカ、オオタカの中では一番大きいので、時代の流れの中でオオタカと呼ばれるようになったのかもしれません。


写真12.オオタカ


その他、色として面白いところではアマサギ(写真13)もいいですね。亜麻色のサギですが、亜麻色って何?って思いますよね。亜麻色は亜麻(あま)をつむいだ糸の色で、黄色がかった淡い茶系色を指します。アマサギの頭部周辺の色をイメージして付けられたのだと思いますが、これを名付けた人は風流な人だなと思います。


写真13.アマサギ


これは色の名前ではないですが、キョウジョシギ(写真14)という鳥がいます。赤や黒といった艶やかな色をしています。これは何からイメージされているかというと京(京都)の女性をイメージしているわけです。昔は京の女性は着物を着た艶やかなイメージが強かったのだと思います。


写真14.キョウジョシギ


もう一つ面白い名前を紹介しましょう。キンクロハジロ(写真15)です。よく知られた鳥で普通に見ることができます。これはどうしてこんな名前か分かりますか?漢字にすると金黒羽白です。目が金色で体が黒くて翼が白いからなのです。安易な名前だなと思う一方で、よくこれが定着して世間に受け入れられたなと思います。


写真15.キンクロハジロ

 

このように鳥の名前はとても興味深いものです。皆さんもぜひ色だけでなく他の視点でも鳥の名前に注目してみてください。



プロフィール

藤井 幹(ふじい・たかし)公益財団法人日本鳥類保護連盟調査研究室長。学生時代から羽根に魅せられ、羽根から種を識別することをテーマに羽根収集に明け暮れる。著書に『自宅で楽しむバードライフ』(文一総合出版)『野鳥観察を楽しむフィールドワーク』(誠文堂新光社)『羽根識別マニュアル 増補改訂版』(文一総合出版)、『世界の美しき鳥の羽根 鳥たちが成し遂げて来た進化が見える』(誠文堂新光社)、『動物遺物学の世界にようこそ!~獣毛・羽根・鳥骨編~』(里の生き物研究会)、『野鳥が集まる庭をつくろう-お家でバードウオッチング-』(誠文堂新光社)など



 



























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