雪や泥に残る生きもの足跡の楽しみ方について、小宮会長にご紹介いただきました!
●足拓採取からスタート
私が足型コレクションと足跡の撮影をはじめたのは、野外で見つけた足跡の正体を知りたいという好奇心がきっかけでした。鳥は体が軽いのと、飛ぶという移動手段があるため、哺乳類ほど足跡を残しません。夜行性が多い哺乳類に比べ、鳥の姿を観察することは容易で、痕跡を探さなくても存在を確認でき、足跡もあまり注目されていません。
足跡を知るために足型の採取をはじめました。鳥の足裏に墨を塗って足型を採取し、私はこの足型を足拓と名づけたのです。動物園に勤めていたので、死亡した種類のはっきりした鳥の足拓を集めることができました。鳥の標識調査のバンディングに同行して、捕獲しリングをつけ計測などを終えた鳥の放鳥を担当し、鳥たちから足拓を採らせてもらいました。
●足跡にも個性
足拓を集めているうちに、分類グループごとに特徴があることに気づいたのです。足拓の特徴は鳥たちの生態、すなわち生き方、暮らし方を反映していました。たくさんの足拓を眺めているうちに違いがわかり、野外で見つけた足跡から、何の仲間とか、どの鳥かなど推測できるようになりました。
佐渡で見つけた雪上についた13㎝ほどの足跡があります(写真1)。この足跡がはたしてトキのものか、それともサギ類のものか迷いました。写真を撮り、家に帰ってから足拓と比べてみたのです。サギの足拓は足指が細く、前側の第3趾と後ろ側の第1趾が直線的に並行です(写真2)。ところがトキの足拓は大きなアオサギより足指が太く第1趾は第3趾と直線ではつながらず少し内側に曲がっているのです(写真3)。雪上で出会った足跡はトキのもので、トキが歩き餌を探していたのではと推測することができました。
●雪上は足跡の宝庫
冬になると足跡を観察する絶好の機会が巡って来ます。うっすらと地面を白くした雪の上には、いろいろな動物の足跡が模様のようについています(写真4~7)。身近な動物ではイヌやネコ、タヌキなどの哺乳類、スズメ、カラス、ハト、ムクドリなど地面に下りて歩く鳥たちの足跡が描かれています。都会の公園や歩道などでもスズメ、ハト、カラス、ツグミなどの足跡を見つけることができます。人の靴跡に足跡がかき消されてしまう前の早朝なら綺麗な足跡を観察できます。夜中に雪が降り出したら、早起きして足跡探険を楽しんでください。
雪国や冬の山ならいろいろな足跡を見つけることができます。東京近郊の山でヤマドリの足跡とテンの足跡が並行して続いているのを見つけました(写真8)。テンがヤマドリを狙って後をつけていたのではと想像が膨らみます。結末はヤマドリがテンにつかまり餌食になったのか、寸でのところで飛び立ち難を逃れたのか、少し前に起きたであろう事件を推理するのは楽しいものです。
立山ではハイマツに出入りするライチョウの足跡を見つけました(写真9)。ここのハイマツをなわばりにするオスが一生懸命メスにアピールしていたのです(写真10)。
●水辺で足跡ウォッチング
川岸、沼や湖の岸辺、田んぼなど泥の湿地は、足跡ウォッチングの穴場です。鳥だけでなくイタチやタヌキの足跡が水辺で採食する鳥の足跡と重なり泥の上についています(写真11)。ここはみんなの良き餌場なのでしょう。川辺の砂地にカルガモの一直線に続く足跡を見つけました(写真12)。カモのなかまは水かきで判別できますが、種名までは難しいのです。この足跡は姿を確認できた新鮮なものだったで、カルガモと断定できたのです。
海辺の湿り気のある砂地でも鳥の足跡が見つかります。海岸の砂浜で波打ち際から餌を探しながらウォーキングしてきたハクセキレイの足跡がありました(写真13)。セキレイの足跡だけ見つけても果たしてキセキレイなのかハクセキレイなのかセグロセキレイなのか判別できませんが、姿を確認できたので種名も判別できた足跡を撮れました。
冬こそ足跡ウォッチングのチャンスです。皆さんも時々目線を下げて、鳥たちの暮らしを推理、想像してみてください。
【足跡スライドギャラリー】
プロフィール
小宮輝之(こみや・てるゆき)
1947 年、東京生まれ。1972 年に多摩動物公園に勤務。2004 年から2011 年まで上野動物園園長。日本鳥類保護連盟会長、山階鳥類研究所評議員、サントリー世界愛鳥基金運営委員。
『だれの手がた・足がた?』、『鳥の足型・足跡ハンドブック』、『哺乳類の足型・足跡ハンドブック』など著書は多数。