45年の時を経て、奄美の森に響く「生命の音」
世界自然遺産の島・奄美大島。アマミノクロウサギやルリカケスといった固有種が、人のすぐそばで息づく生物多様性に富んだ島です。しかし、1979年に持ち込まれた外来種「フイリマングース」により、かつて森からは生き物の気配が消え、アカヒゲのさえずりさえ聞こえない「静かな森」へと変貌してしまいました。

この深刻な事態に立ち上がったのは、奄美の住民、研究者でした。その後、環境省が外来生物法施行とともに組織した「奄美マングースバスターズ」の不屈の努力により、導入から45年目の2024年9月3日、ついに奄美大島からのマングースの「根絶」が宣言されました。

●根絶の鍵を握った「探索犬」の活躍
マングース防除事業において、最大の壁となったのは「捕獲効率の低下」でした。この絶望的な状況で決定的な役割を果たしたのが、高度な訓練を受けた「マングース探索犬」です。探索犬は、わなのように「来るのを待つ」のではなく、マングースの潜んでいる場所を自ら「見つけ出す」能動的な方法です。生い茂る草木の中や複雑な巣穴に潜むメス、そして警戒心の強いトラップシャイ個体をもピンポイントで発見し、捕獲へと繋げました。
低密度になっても高い捕獲効率を維持し、同時にその周辺に「もういないこと」を証明できる探索犬の導入こそが、不可能と言われた根絶を現実のものにしました。「探索犬がいなければ、根絶の日は迎えられなかった」。これは、奄美の現場が証明した揺るぎない事実です。

●奄美の未来を繋ぐ一冊:『マングースヒストリー』
この壮大な根絶劇の全貌を知りたい方へ、ぜひ手にとっていただきたい本があります。
書籍名: 『マングースヒストリー』(東京大学出版会)
著者: 亘 悠哉(森林総合研究所)

著者は、学生時代から奄美でマングースに関わってきた、島嶼における外来種対策のエキスパートです。本書には、45年にわたる苦闘の歴史、野生動物への深い洞察、そして「命を奪う対策」に向き合う葛藤が、当事者ならではの視点で熱く綴られています。
「殺処分はかわいそう」と感じる方や、将来、自然保護の現場を志す子どもたちにこそ読んでほしい。殺処分という厳しい現実を避けず、生物多様性保全とは何かを真摯に問いかける希望と教訓に満ちた一冊です。
●戻ってきた命、そしてこれからの課題
マングースの排除により、アマミノクロウサギなどの希少種は劇的に回復し、絶滅危惧種のリストから外れる鳥類も出てくるなど、世界的な成果を上げました。



しかし、奄美の生態系保全は終わりではありません。マングースの再侵入の防止や、ノネコなどの新たな外来種対策といった課題が今も続いています。奄美マングースバスターズは、これからもこの豊かな森を見守り続けていきます。

プロフィール
後藤義仁(ごとう・よしひと)愛知県出身。父親の影響で幼少期から鳥に親しんできた「鳥屋2世」。2006年に奄美大島へ移住し、翌年から「奄美マングースバスターズ」として島の生態系保全の最前線に立つ。保全活動を通じてフィールドを広げる中、鳥類標識調査員(バンダー)の免許を取得。現在は奄美の鳥類標識調査や無人島での海鳥繁殖調査など、多様な生物調査に携わっている。ライフワークである無人島調査の最大の楽しみは、厳しい調査の後に大自然の中で味わう一杯のビール。
