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コアジサシ

沖縄県で繁殖するコアジサシ

コアジサシは北半球から南半球にかけて広く分布しています。以前はアメリカ大陸に生息するアメリカコアジサシも同種とされていましたが、今は種が別れたので、コアジサシはアメリカ大陸を除いた世界各地に広く分布していると言えます。

このコアジサシは渡り鳥ですが、アジア、オセアニア地域では渡りの時期に各地のコアジサシがかなり複雑に交錯しています。例えば日本で繁殖するコアジサシは、秋にはフィリピンからパプアニューギニア、オーストラリア、ニュージーランドへと移動することが、私たちの調査や山階鳥類研究所の調査で分かっています。そして越冬地であるオーストラリアには別のコアジサシがいて、そのコアジサシはオーストラリアで繁殖しています。つまりオーストラリアには夏羽のコアジサシと冬羽のコアジサシの両方を同時に見ることができるのです。そしてオーストラリアのコアジサシも繁殖が終われば北に移動します。さらにその間にあるインドネシアには渡りをしないと言われているコアジサシもいます。現地の方に話を聞くと、渡りの時期に一時的にコアジサシが増えるというので、南北から渡ってくるコアジサシと渡らないコアジサシが入り乱れる時期があるようです。まさにインドネシアはカオス状態のエリアと言っても過言ではありません。
結局のところ、これだけ複雑な状態のため、渡りや地域個体群の交流などについての詳細は分かっていないことが多いのが現状です。

オーストラリアで越冬するコアジサシ
ギンカモメに追いかけられるオーストラリアで繫殖するコアジサシ
中国海豊自然保護区で繫殖するコアジサシ
インドネシア バリで繫殖するコアジサシ

そのコアジサシは、日本では繁殖環境が安定しないために絶滅の危機に瀕しています。元々は河川の中州や海岸線の砂浜などが繁殖環境でした。しかし、ダム建設によって河川が氾濫しにくくなり河川敷の草地化が進んだことや、砂利の供給量が減少し中州が低くなったり、河口付近の砂浜が後退したりしたことで、コロニーが洪水や高波の影響を受けやすくなりました。そのため繁殖は天候に左右されやすく、子育てに失敗する年も多く見られます。また、自然環境が少なくなる中で埋め立て地などにコロニーを形成するようになりましたが、このような環境は将来的には無くなってしまうため、今後コアジサシの営巣環境は減少していくことが予想されます。

千葉県九十九里浜で繫殖するコアジサシ

そのような中、令和8年3月、環境省のレッドリストの改訂が公表され、コアジサシが絶滅危惧Ⅱ類から絶滅危惧ⅠB類に上がりました。しかし、コアジサシの生息状況は、ここ数年で急に陥ったというものではありません。これまでも絶滅に瀕していると警笛を鳴らしてはいましたが、現状を正確に把握することが難しく、絶滅危惧Ⅰ類へのランクアップに至らなかったのです。その経緯を考えれば、ここで初めてコアジサシの現状が理解され、絶滅危惧ⅠB類に上がったのですから、保全の緊急性が認知されるという意味でもとても心強く思います。コアジサシは、繁殖が失敗に終わることが続いても、比較的長寿のためその影響が直ぐには現れません。しかし、現存する成鳥の寿命により、あるとき突然コアジサシが激減するかもしれません。そうなってからでは、生息状況の回復は困難を極めるでしょう。絶滅危惧Ⅱ類と絶滅危惧ⅠB類では、保全の優先度に大きな違いあります。今後、このランクアップがコアジサシの保全活動への大きな後押しになることは間違いありません。
日本鳥類保護連盟でも、コアジサシの渡り生態を調査しながら、今後も保全に貢献していきたいと考えています。

プロフィール
藤井 幹(ふじい・たかし)公益財団法人日本鳥類保護連盟調査研究室長。当連盟のコアジサシ研究センターにおいてコアジサシの調査研究に従事している。著書に『自宅で楽しむバードライフ』(文一総合出版)『野鳥観察を楽しむフィールドワーク』(誠文堂新光社)『羽根識別マニュアル 増補改訂版』(文一総合出版)、『世界の美しき鳥の羽根 鳥たちが成し遂げて来た進化が見える』(誠文堂新光社)、『動物遺物学の世界にようこそ!~獣毛・羽根・鳥骨編~』(里の生き物研究会)、『野鳥が集まる庭をつくろう-お家でバードウオッチング-』(誠文堂新光社)など

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