ニホンウナギの絶滅を回避し持続可能な社会を創る森林のはたらき

〇活動期間:2023年6月~
〇参加人数・部活名等
山門高校Oneヘルスクラブ(生徒15名、教師2名)、伝習館高校の参加してくれた生徒6名、山川ほたる保存会の参加して頂いた皆様14名、桜舞館小学校の参加して頂いた児童30名、先生7名、瀬高小学校の参加して頂いた児童30名、先生5名、乗冨鉄工所の皆様2名、みやま市の皆様6名
〇活動場所
校内(ウナギ飼育場)、飯江川、飯江川上流100年の森、清水山、全国の放流場所(豊後高田市田染荘、大阪府高槻市高槻森林観光センター、長野県信濃町野尻湖など) ※ニホンウナギは西マリアナ海嶺でアジア周辺から集まった親ウナギ(銀ウナギ)がウナギ柱をつくり1ヶ所で産卵・受精しているので遺伝的に均一で、国内外来種などの問題には当てはまらない。

🌐 学校ホームページ

活動内容

活動の概略(アブストラクト)
 柳川市では、柳川掘割でたくさん獲れていたウナギの食文化が江戸時代から続いており、多くの観光客が訪れている。ところが、2014年にIUCNがニホンウナギを絶滅危惧種に指定したことで、柳川ではウナギの蒸籠蒸しを提供できなくなるという不安が大きくなった。私たち(当時は伝習館高校生物部)は、九州大学の望岡典隆准教授(当時、現在はウナギ増殖研究所所長)の計らいで特別採捕許可証に採捕者として登録して頂き、ウナギの絶滅を回避するためにシラスウナギを特別採捕し、遊泳力が大きくなるまで育て、放流できる日本で唯一の高校となった。ところが、ウナギは西マリアナ海嶺で生まれて、アジアまで回遊し川を遡り、陸域の水路や溜池で成長することからウナギが成育するために海と森の川を通した繋がりが必要である。このことからウナギの生息環境全体を守る必要が生まれた。このことで、森と海と川の健全な繋がりを守ることに活動の目的がシフトした。この地域に魚道を持たない可動堰が至る所に設置されている。しかし、可動堰は夏の農業用水を確保するために水を堰き止め、ひとたび豪雨になると堰板を倒し水をサッと流し決壊を防ぐ、 2つの機能を持つことが分かった。では、なぜ可動堰が必要になるのか。上流の森の土壌が拡大を続ける放置竹林によって吸水力が消失しているからだ。この地域の竹林は江戸時代に食用として持ち込まれたモウソウチクが広がったものだ。現在では、タケノコの利用も減少し所有者の高齢化などの理由で竹林は放置され荒れ放題になっている。そればかりか広葉樹の自然林に竹林が侵入し広葉樹が著しく減少し、土壌の腐植層が貧弱になるという問題が生じた。このことで、本来自然林の土壌が有する地盤支持力と栄養塩類及び腐植質生産能が弱くなり、有明海の生産力低下などの諸問題が露呈している。また、近年の豪雨に伴い竹林での斜面崩壊も頻発している。これらの問題を解決するために土壌機能の回復を目的として地域の団体と竹林伐採を行っている。また、生徒主体で昨年から自然林の土壌機能に関する実験を行い、天然ウナギが数を減らしたことと自然林減少の因果関係を探っている。このことで、竹林を伐採し、自然林保全に多くの人の協力が少しずつではあるが得られるようになった。

ウナギの保護活動から森林の保護へ
 前任校の伝習館高校で2014年にIUCNからニホンウナギが絶滅危惧種に指定されたことを機にウナギの絶滅を回避するためにシラスウナギの特別採捕と遊泳能力が大きくなる7cm以上まで飼育し柳川掘割に放流した。現在までに特別採捕数は16,484個体、放流数は14,396個体になった(資料1)。柳川掘割では、川下りの船の往来がないが底に砂が堆積している柳川市立図書館前の掘割に石倉かご(資料2)を2基設置し、再捕獲した個体にイラストマー蛍光標識で個体識別をして再び放流した。柳川掘割でのウナギの再捕獲は難しかったが、再捕獲した時は新聞記事で報道された(資料3)。石倉かごを設置した2014年頃はニッポンバラタナゴ等のタナゴ類も捕獲することができた。しかし、2019年頃から徐々に掘割の底や石倉かごに細粒の砕屑物とヘドロ状の有機質が堆積するようになり、2022年にはドンコしか捕獲できなくなった。私たちは、掘割底の堆積物の粒径調査を行い掘割に流れ込む水量の減少が原因であると考えた(資料4)。また、2018年まではウナギ飼育水槽で感染症に罹り死亡する個体が多かったが、2018年後半から飼育水槽にクスノキ落葉を入れることで、感染症に罹らなくなり死亡率が激減することを発見した(資料5)。水槽にクスノキ落葉に付着していたある種の細菌がアンモニアを直接代謝しアミノ酸を合成し増殖することを京都大と連携して解明した(資料6)。自然界にはこのように持続可能な環境を維持するしくみがあることに驚きを感じた。人が手掘りで造った柳川掘割にはウナギの好む護岸の隙間があり、稚魚を放流すると育ってくれるはずである。しかし、自然は持続可能なしくみを持っていることを確信したことで自然の川を使ってウナギの絶滅を回避したいと考えた。私たちは2020年にみやま市南部を流れる流路10kmほどの飯江川中流に石倉かごを設置して地域の小学校の児童と稚ウナギの放流をはじめた(資料7)。石倉かごで再捕獲した個体にはイラストマー蛍光標識で個体識別をして再放流した。個体識別をした個体を10回捕獲した。その結果、体長30cmまでの個体は1ヶ月で夏季は16mm、冬季は2mm成長すると試算した(資料8)。ところが、石倉かごで捕れる魚類は数種類で多様性に乏しい。これは飯江川に設置された魚道が整備されていない可動堰が多いからだ(資料9)。また、飯江川は豪雨時に幾度となく氾濫し河道は直線的に復旧されている。可動堰は夏季の農業用水確保と、豪雨時の氾濫を防ぐために作られた。つまり、人の命と暮らしを守るため造られたのだ。令和2年7月豪雨でみやま市は線状降水帯の影響により何ヶ所も土砂災害が起こった。災害場所は竹林と密植されたスギ植林だ(資料10)。この地域には放置された竹林が拡大している。この竹林は江戸時代に食用として持ち込まれたモウソウチクがひろがったものだ。自然林の土壌の観察と吸水力を測定(資料11)し、腐植層が発達すると生物多様性の損失、可動堰や土砂災害、河川の氾濫の様々な問題が解決すると考えた。そこで、豊かな生態系を守るためにモウソウチク林を伐採した(資料12)。私たちは、森の腐植層で細菌や分解者のはたらきで造られる栄養塩類とフルボ酸を使った実験を行った。その結果、ウナギ稚魚は栄養塩類溶液に集合することで川を遡上し、フルボ酸溶液中で水替えをしなくても感染症に罹らないことが分かった(資料13)。森の土壌で造られる栄養塩類は里で営まれる水田や畑作で使われ、川で運ばれ海ではノリの養分として使われる。また、二酸化炭素を吸収するブルーカーボン拡大に貢献してくれる。近年では、フルボ酸も農地の土壌改良だけでなく人や動物の健康にも良いのではないかと研究が行われている。自然界の全ての物の繋がりに目を向けると森のはたらきに私たちの社会のありとあらゆる物が支えられていることが理解できる。最近の豪雨による災害も流域治水の根幹を成す上流域の健全な森のはたらきや食と生物多様性の問題も森と海の健全な繋がりを正常化することで解決できるはずである。私たちは、これらの知見から得られた森・里・海の環境のつながりを軸に小中学校の観察会や講演会や県や市から依頼された発表会など様々な機会で発表し啓発を行っている(資料14)。

活動紹介動画


成果・工夫した点

〇クスノキ落葉を投入するだけで水替えのいらない持続可能な水環境を作るための工夫を行った。このことから持続可能な自然界のシステムを社会に応用することでSDGsが実現できると考えた。

〇ウナギ水槽にクスノキ落葉を入れることで、ウナギの感染症の原因菌の繁殖を抑える効果があることが分かった。これは、土壌の改善効果があるとして多くの人に注目される腐植物質のフルボ酸がウナギの健康に好影響を及ぼすか確かめる実験の過程で水槽水の細菌叢の解析から得られた。

〇別々の2社が製造する国内生産のフルボ酸2種類を使って飼育水槽のウナギの死亡率減少と水替えの必要ない節水効果を検討した結果、フルボ酸を使用することで養殖業での節水やウナギ等魚類の健康増進が期待できるというデータを得た。11月から九電と協働でサーモン養殖での効果を検証する予定である。

〇ウナギの絶滅を回避するためにウナギ稚魚が成長場所である川を遡上するしくみを解明するために、様々な栄養塩溶液に対するウナギの集合性を検討した。その結果、メタン発酵分解産物の液肥にウナギ稚魚が集合することを発見した。以上の実験からウナギが川を遡上するために栄養塩が必要であることが分かった。

〇栄養塩類もフルボ酸も本来は森の土壌、特に腐植層で分解者や細菌類などのはたらきによって長い年月をかけて形成される。ウナギの絶滅を回避するために自然林が必要であることが分かった。

〇放置された竹林が広がることで自然林の多様性が失われ、自然林が徐々に衰弱するばかりか、竹林の地下茎は浅く一度豪雨に見舞われると土砂災害が頻発することが分かった。

〇地域の皆様(山川ほたる保存会やみやま市の皆様)の力を借り上流域の放置された竹林を伐採し自然林を回復させる活動を行っている。土壌で造られる栄養塩類や腐植質がウナギの絶滅を回避するのに役立ちそうである。私たちが竹林を伐採して自然林を回復させようとしている取り組みは、私たちが行った研究からウナギの絶滅に貢献しそうである。さらに、有明海のノリ養殖の不振や有明海の漁業不漁も改善できる可能性がある。

〇私たちの社会は食や安全などを含めて自然資本に支えられている。持続可能な社会を創るために自然と共存した生き方の重要性を啓発している。特に小中学校への講演や観察会を行った。

〇私たちの社会が生命を中心に据えた持続可能性を維持するために多くの方の協力が必要である。「自然が持つ持続可能なシステムを利用するために自然環境とそこで生きる多様な生物の双方向の関係性」が維持されると自然界は持続性を発揮する。このことを様々な小中学校の講演会と地域の発表会で発表することを依頼された。小中学生は次の社会の担い手で、ご年配の方からは私たちの活動への賞賛とチェンソーを持って伐採に参加したいと仰った。

〇食は生物多様性に支えられている。生物多様性は豊かな環境多様性に支えられている。多様な環境は森・川・海がエコトーンを形成し健全に繋がり合うことで造られる。本来この自然のシステムは持続可能である。近年、どうもこれらの繋がりが破綻しているようだ。この破綻を解消するのがワンヘルス教育である。ワンヘルス教育は命を軸に据えており初等教育及び、ご年配の方と相性が良く、多くの賛同の声を頂くことができた。この活動を続けることで持続可能な社会創りが推進され、SDGsが実現されるはずだ。WHOも「ワンヘルス共同行動計画」を2029年まで延長した(2026年8月17日、日本WHOニュース)。

〇私たちが行っているウナギを守る活動から始まった環境の健全性を回復させる活動は、人間社会の持続性を目指している。昨年から企業から視察や講演会の依頼が寄せられるようになった。企業も持続可能な社会を望んでいる。
●2026年福岡県議会で様々な報道をされているが、私たちも8月末にNHK福岡から取材を受け生徒は「ワンヘルスの理念は正しい。ワンヘルスの取り組みが問題視されているのは残念だ。この理念が正しいことを僕たちの行動で県民の皆様に示していきたい。」と言った。私も様々な報道を聞き、悔しい思いをしていたが、生徒たちに救われた思いである。


🏫学校情報

福岡県立山門高等学校
〒835-0025
福岡県みやま市瀬高町上庄1730-1