屋久島サンゴ礁生態系におけるオニヒトデの未確認と周辺生物群集

〇参加人数・部活名等
生徒5名
〇活動場所
学校、屋久島

🌐 学校ホームページ

活動内容

 私たちは、幼少期から海洋生物に強い関心を持ち、「地球上で最も多様性の高い生態系」と称されるサンゴ礁の保全に関心を寄せてきた。近年、沖縄をはじめ日本各地でオニヒトデによるサンゴの食害が深刻化しているが、屋久島における発生状況や、それが周辺生物群集に及ぼす影響については十分な調査事例が存在しなかった。そこで学校のPBL(課題解決型学習)研修プログラムを活用し、世界遺産・屋久島の海岸線に広がるサンゴ礁を対象とした実地調査を行った。

調査地:屋久島「塚崎タイドプール」「春田浜」の2箇所(YNAC屋久島ネイチャークラブ協会の協力による選定)
調査期間:2026年5月26日〜30日
調査手法:陸域と海域の境界(0m地点)を基準に、海側へ10mごとに区切り地点を設定する「トランセクト法」を採用。各区間でサンゴの生息状況・被度、周辺動植物の種と個体数、オニヒトデの生息有無を目視で記録した
仮説: ①地点間でサンゴ・周辺生物相に違いはあるか
   ②同一地点内でも陸側・海側で違いはあるか
   ③オニヒトデの食害が進行しているなら周辺生物にも変化が見られるはずである

 調査の結果、両地点とも0m〜100m地点にわたってオニヒトデは一頭も確認されなかった一方、サンゴは60m地点以降で生息が確認され、陸地からの距離に応じて出現する動植物の種類が明確に移り変わる様子が観察された。この「オニヒトデが確認できなかった」という結果を、単なる調査の失敗ではなく、屋久島のサンゴ礁生態系の現状を示す意味あるデータとして多角的に考察した。


成果・工夫した点

 この調査で私たちが最も胸を張れるのは、「オニヒトデが一頭も見つからなかった」という、一見すると”失敗”にも見える結果を、決して安易に切り捨てなかったことである。
 調査を始めた当初、私たちは内心「オニヒトデの食害の証拠を見つけられるはずだ」という思いを抱いていた。しかし現地での5日間、炎天下の岩場をトランセクトに沿って一区間ずつ丹念に観察しても、その姿はどこにも見当たらなかった。この結果を前にした時、私たちは二つの道の分岐に立った。「仮説➂は支持されなかった」という一言で調査を終わらせる道と、この”いなかった”という事実そのものに向き合い、その意味を最後まで問い続ける道である。私たちは後者を選んだ。
 仮説設計の工夫:食害の有無を直接観察するだけでなく、地点間の違い・地点内の違い・周辺生物相への影響という3段階の仮説を組み合わせることで、多角的に検証できる調査デザインを構築した
調査手法の工夫:限られた研修日程の中で、安全性と再現性を両立させる「トランセクト法」を採用。自然の地形には明確な境界がないからこそ、0m地点の基準を自分たちで統一し、地点間の比較可能性を確保するという地道な工夫を重ねた
考察の粘り強さ:「いなかった」という結果を、
①夜行性であるオニヒトデを日中の調査では見逃した可能性、
②黒潮の影響を強く受ける屋久島特有の海流条件が幼生の定着を妨げている可能性、
③サンゴの被度自体が低く十分な餌場が形成されていない可能性という、少なくとも3つの視点から検討し尽くした。一つの答えに飛びつかず、「確認できないことを証明する難しさ」そのものに向き合った点は、私たちが最も時間をかけ、最も議論を重ねた部分である。
役割分担と専門家連携:仮説・調査項目・記録方法という調査の核心部分は生徒自身が決定し、地理的知見や安全管理はYNAC様の専門的な協力を得るという、生徒主体と専門家連携を両立させる体制を作り上げた。

 未来への接続:この結果を「屋久島のサンゴ礁は今のところ守られている」という安心材料としてだけでなく、「気候変動によって将来オニヒトデの分布が北上する可能性がある」という警鐘としても位置づけ、今回の調査を今後の定期監視につなげる”最初のベースライン”として明確に定義した。
 そして私たちはこの結果を、学校の文化祭「郁秋祭」でポスターとして発表することを決めた。単に「オニヒトデはいませんでした」と報告するのではなく、その裏にある夜行性という生態的特徴や、継続調査の必要性まで丁寧に伝えることで、来場してくださる保護者や地域の方々にも、サンゴ礁保全を”自分ごと”として考えてもらうきっかけを作りたいと考えている。今回の調査で得た「答えが出ないことにも意味がある」という気づきを、私たちはこれからも屋久島のサンゴ礁と共に育てていきたい。


🏫学校情報

郁文館高等学校
〒113-0023
東京都文京区向丘2-19-1