
キクタニギクの自生地復活へ
~保全の輪でつなぐ京の景色~
🏫京都府立桂高等学校 📍京都府
〇活動期間:2024年~
〇参加人数・部活名等
TAFS第2研究群 樹木研究班 生徒10名、教員3名
〇活動場所
学校内、高台寺岡林院、菊渓(菊谷川周辺)、京都市岩倉地区
活動内容
1.はじめに
キクタニギクとは、京都市東山区の菊渓に自生していたことから和名がついたキク科の植物です。百鞠亭素仙によって書かれた菊の図譜、『扶桑百菊譜』には「黄花の菊が高台寺の後山にあり、昔からここが菊渓と呼ばれる」と記載されています。
キクタニギクはキク属のモデル植物としてゲノム解析が行われ、研究材料としても扱われています。しかし、和名のもととなった自生地では、環境の変化や獣害により絶滅しており、環境省第5次レッドリストでは準絶滅危惧(NT)に指定されています。近年京都市内の別の場所で発見された株を、地域団体「都の福菊」様が、地元農家と協力し保全されています。「都の福菊」様は露地栽培と鉢植え栽培を行っていますが、地球温暖化による気温上昇の影響で暑さに弱いキクタニギクの栽培が困難になったことから保全協力のご相談を受け、協働した保全活動を開始しました。貴重な種を守るためには、保存と増殖、栽培の仕組み作りが必要なため、日頃の学習内容をもとに環境に左右されない植物組織培養と養液栽培を用いた生育特性の調査と生息域外保全を行いました。
2.開花調整実験(2024)
キクタニギクの栽培環境による開花日数を調査するため人工気象器での栽培とシェード栽培、対照区として温室普通栽培で実験を行いました。短日処理期間は2週間、4週間、通年の3試験区を設けました。人工気象器とシェードでの栽培は、短日処理期間終了後、温室普通栽培に変更し実験を行いました。その結果、処理期間が2週間の区と対照区では開花まで20週以上かかり、人工気象器4週間区では8週、通年区では7週、シェード4週間区では21週、通年区では12週で開花が確認されました。
このことから、人工気象器で設定した25℃程度がキクタニギクの栽培適温であり、適温での栽培期間が短いと開花が遅れることがわかりました。
3.生息域外保全と大量増殖(2025)
①植物組織培養による生息域外保全と大量増殖法の検討
植物組織培養は、MS培地を基本培地とし、植物ホルモンであるベンジルアデニンとナフタレン酢酸を添加した培地での比較培養実験を実施しました。
植物ホルモンは、不定芽や不定根の分化に有効的に作用します。そのため、無添加培地を含むどの培地が保存に有効かを検討しました。その結果、植物ホルモン無添加培地では茎の伸長や不定根の発生が見られました。ベンジルアデニン添加培地ではほとんどの節から側枝の伸長が見られ、またナフタレン酢酸添加培地では不定根の発生が早期に見られました。苗の大量増殖に関しては、植物ホルモン添加培地で育成することが有効ですが、遺伝的形質を変異させることなく保全することを目的としているため、植物ホルモン無添加培地でも順調に生育していたことから、無添加培地での保存、増殖が最適だと判断しました。
②簡易的な養液栽培法の検討
一般の方でも室内などで簡易的に栽培ができるよう、養液栽培の方法を模索しました。養液栽培は、土壌病害虫や塩類集積の被害を避けることができ、健全な株の育成に有効であると考え、養液栽培の基本となる養液濃度の検討を行いました。実験では育成した培養株を使用し、園芸試験処方(園試処方)100%濃度区と50%濃度区の2処理区を設け、人工気象器内で栽培を行いました。結果は、葉色とEC値の違いから50%濃度区のほうが適正濃度であると考えられ、コスト面からも低い値のほうが継続的に栽培しやすいと考えました。
4.和名由来の自生地への植え付けと継続した栽培管理方法の共有(2025~現在)
京都市東山区の菊渓という場所は、昔はキクタニギクが自生していましたが、環境の変化や獣害によって絶滅してしまいました。そこで、菊谷川が流れる高台寺岡林院の御住職から御相談を受け、植え付けを行うことになりました。
重陽の節句に合わせ開花株を植え付けることで目を引いてもらい、まずはキクタニギクのことや、和名由来の地で絶滅をしてしまった現状を知ってもらうことが必要と考えました。
本来キクタニギクは9月9日には開花しませんが、人工気象器内で開花調整した株を用意し、岡林院御住職、都の福菊、桂高校の3者が共同して未開花株と開花株の両方を植え付けることができました。その後旧暦の重陽の節句にも植え付けを行い、継続的に管理観察を行っています。
また、私たちが植え付けを行った、冬越しした芽を利用して、御住職や近隣住民の方に挿し芽指導を行いました。挿し芽の方法を実演したのち、以前植え付けた株から挿し穂をとり、ポットへ植え付けました。挿し芽指導を行ったことで御住職や地域の方々が継続的に管理できる仕組み作りを行うことができました。
PR資料
成果・工夫した点
1.地域と連携して継続的な活動としている点
高台寺岡林院に植え付けや挿し芽指導を行うにあたって、植え付け場所や植え付け方法について、御住職と会議を行いました。当日は新聞社の方にもお越しいただき、記事にとりあげていただいたことでキクタニギクを守ることの大切さや、私たちの保全活動を多くの人に知ってもらうことができました。このような活動は継続して行っており、2025年10月27日には短日処理をしていない株の植栽を行ったり、2026年7月20日には育成した株の植栽とこれまで植え付けた株の観察も行いました。今後も定期的に岡林院に足を運び、観察を行っていきます。
京都市東山区にあるベーカリー「ルバカサブル」の店主の方と協力し、関西日仏会館で開かれたル・マルシェで、キクタニギクを利用したパウンドケーキを販売しました。キクタニギクの食用化には京都府立大学に協力していただいて成分分析を行いました。京都らしさとキクタニギクの鮮やかな黄色い花弁を際立たせたレシピを考案し、パッケージも独自でデザインしたものを使用しました。外国人が多く訪れる場所であることと、地元での販売という点で効果的に周知することができたと思っています。
2.大量増殖法の検討と実験で工夫したこと
植物組織培養では、培地が入った培養瓶に切り出した植物体を植え付け、無菌的に育成します。しかしこの培養実験中に瓶の中に雑菌が混入することがあります。雑菌は培地の栄養素を吸収して急速に増殖して植物体の生育を妨げてしまいます。それを防ぐために実験中は雑菌が混入しないように滅菌を徹底することに苦労しました。大量増殖する際は一度にたくさんの植物体を扱うため、できるだけ株を無駄にしないように特に注意しました。また、植物ホルモンの添加を検討した培養実験では、植物体ごとの生育のばらつきや培養変異の可能性などを考慮して観察結果を記録する必要がありました。さらに、培養途中の植物体は小さく肉眼で観察しづらいため、変化を正確に確認するためにも、こまめな観察を心掛けました。
3.今後期待されること
2027年3月から開催される国際園芸博覧会の日本政府苑に本校がガーデンを制作することが決定しています。高校生未来咲きガーデンプロジェクトは次世代の花卉園芸や農業を担う高校生を対象に、環境問題に取り組むガーデン制作を行うプロジェクトです。ガーデンは京都の絶滅危惧種であるキクタニギクや絶滅の危機に瀕している植物を世界中に知っていただき、再び愛されることを目指しています。また環境問題について提起し、多くの人に考える機会を持っていただけたらと考えています。
🏫学校情報
京都府立桂高等学校
〒615-8102
京都市西京区川島松ノ木本町27
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