「守るから再生へ」モリアオガエル保存活動がつなぐ生態系の再生

〇活動期間:1968年~
〇参加人数・部活名等
モリアオガエル保存会(生徒80名、教職員40名)
〇活動場所
学校周辺及び、山口町内のため池

🌐 モリアオガエル保存会ホームページ

活動内容

1.活動の原点と地域への定着(1968年〜2016年)
 私たちの活動は、昭和43年(1968年)に当時の理科部員が道端で1匹のカエルの死骸を見つけたことから始まりました。当時、飼育していたサギの餌を探していた生徒たちが偶然発見したその個体は、希少な日本固有種である「モリアオガエル」でした。この発見を機に、翌年から生息場所の特定と保護活動が本格的に始動しました。
 山口町では当時、高速道路の開通や流通業務団地の造成といった大規模な宅地開発が急速に進み、山林が切り開かれる中でモリアオガエルの生息地が失われつつありました。この状況に対し、理科部による自主的な保護活動は西宮市議会でも議題となり、モリアオガエルは西宮市の文化財に指定されました。平成元年(1989年)には、当時の環境庁より「ふるさといきものの里」の認定を受け、地域を挙げた保護体制が確立されました。平成3年には、世界で唯一の専用飼育施設「モリアオさん家」が完成し、生徒たちが日々卵塊に霧吹きをかけ、幼生を育てる活動の拠点となりました。

2.保存会への転換と「生徒ボランティア」主体の進化(2017年〜現在)
 活動開始から約半世紀が経過した平成29年(2017年)、部員数の減少により理科部の廃部という最大の危機が訪れました。しかし、50年続いた「命のバトン」を絶やさないため、教職員が核となり、生徒ボランティアが主体となって活動を継続する「モリアオガエル保存会」へと組織を刷新しました。この転換は、単なる組織の変更に留まらず、活動の質を劇的に進化させました。かつての部活動という枠を超え、現在は全校生徒約400名の5分の1にあたる約80名が「生徒ボランティア」として登録し、部活動と両立しながら保全活動に参加しています。この主体的な関わりは、SDGsへの関心の高まりとともに、地域住民や保護者を巻き込んだ大きな社会運動へと発展しました。

3.年間の保全サイクルと多角的な活動
 保存会の活動は、①卵塊の採集、②校内・野外での飼育、③成長観察・調査、④元の池への放池(ほうち)、⑤生息地整備、⑥継続的なモニタリングという6つのサイクルを軸に展開しています。毎年5月下旬から10カ所の生息地を巡り、約12個の卵塊を採集して「モリアオさん家」で大切に育てます。孵化したオタマジャクシには、かつてはベビーフードのみを与えていましたが、現在は科学的知見に基づきエサを改良しています。7月には成長した個体を元の池へ戻す「放池」を行い、これまでに累計約11万匹を自然界へ帰してきました。
 さらに活動はカエル単体の保護に留まらず、生息地となる「ため池」の保全へと広がっています。土砂崩れや損壊、水資源の枯渇といった「6つの危機」に直面する地域のため池を救うため、地権者の許可を得て生徒自らが土嚢(どのう)を積み、水位を維持する緊急補修作業を行うなど、泥臭い実践活動を継続しています。

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活動紹介動画


成果・工夫した点

1.科学的探究による定説の打破:テレメトリー調査の衝撃
 保存会の活動の最大の特徴は、伝統的な保護活動に「最新の科学的視点」を融合させた点にあります。長年、モリアオガエルの移動範囲は繁殖池から200m程度という定説がありました。しかし、保存会は1gという超小型発信機(テレメトリー)を用いた行動調査を実施し、実際には池から最大656mも離れた場所まで移動していることを突き止めました。この発見は、単に池を守るだけでは不十分であり、周辺の森林を「緩衝地帯(バッファーゾーン)」として一体的に保全すべきだという具体的な保全根拠を提示しました。また、センサーカメラによる夜間調査では、特定外来生物のアライグマが頻繁に池を訪れ、カエルを捕食している決定的な瞬間を確認しました。これらの科学的データは、地域開発や外来種対策を議論する上での貴重なエビデンスとなり、西宮市や土木事務所といった公的機関との連携を強化する強力な武器となりました。

2.「学校ビオトープ」を通じた生態系全体の再生と域外保全
 4年前、生徒たちは卒業生の重機協力を得て、学校内に手作りのビオトープを完成させました。単なる池の造成ではなく、有馬川と山口中央公園を繋ぐ「緑の道(コリドー)」として設計されたこの空間には、現在、確認できるだけで動物34種、植物74種の計108種類の動植物が息づいています。
 このビオトープは、単なる観察の場ではなく「研究拠点」として活用されています。室内飼育よりも野外飼育の方がオタマジャクシが1cm以上大きく、体色も濃く健康に育つことを実験で証明しました。この結果を受け、室内施設「モリアオさん家」にエアコンを導入し、データロガーで得た自然界の数値に基づき、室温24度、湿度75%を24時間維持する精密な環境管理を開始しました。さらに、中野地区で新たに発見された絶滅危惧種セトウチサンショウウオの保全や、希少な水生植物シャジクモの移植など、モリアオガエルを環境指標種(アンブレラ種)とした「生態系全体の再生」へと活動のステージを引き上げています。

3.「見える化」と「感性」を重視した社会的波及効果の創出
 専門的な調査結果を自己満足に終わらせないための「情報の伝え方」にも、保存会ならではの工夫があります。職員室前に設置されたミニアクアリウムでは、めったに見られない捕食や産卵の様子を全校生徒が日常的に観察できるよう「見える化」を図りました。
 また、地域の祭りで調査パネルを展示するだけでなく、活動のテーマソング「カエル場所」を制作し、歌とダンスを通じて自然保護の重要性を未就学児から大人まで幅広く伝えています。マスコットキャラクター「モーリー」は今や学校のシンボルとなり、地権者や地域諸団体とのパートナーシップを深めるアンバサダー的な役割を果たしています。

結論:ネイチャーポジティブへの挑戦と未来への提言
 保存会は現在、環境省が提唱する「30by30」に参画し、関係するため池周辺を「自然共生サイト」として認定されることを目指す「ネイチャーポジティブ宣言」を行いました。中学生による57年の活動は、単なる生物保護を超え、地域コミュニティを再構築し、次世代のリーダーを育む「教育的イノベーション」へと昇華しています。
 「中学生が守り続けた命は、地域の未来そのものです」。この言葉に象徴される通り、情熱(Passion)、データ(Science)、そして地域との絆(Partnership)を三位一体で実践する私たちのモデルは、全国の野生生物保護活動を牽引するフロントランナーであると確信しています。


🏫学校情報

西宮市立山口中学校

〒651-1421
兵庫県西宮市山口町上山口2丁目3-43